第16回 マハレのサルたちの訂正

五百部 裕


  2003年12月に刊行されたマハレ珍聞第2号から、 「マハレのサルたち」「マハレの動物たち」と いう連載を続けてきました。一方、来年2015年で50周年 を迎えるマハレにおけるチンパンジー研 究を記念して出版予定の「Mahale Chimpanzees: 50 Years of Research」と題した本の編集作業が 進んでいます。この本で、私は「Mammalian fauna」 という1 章を担当することになり、すでに原 稿を上梓しました。そしてこの章を執筆していく中で、 これまで珍聞に記載してきた連載の誤りやそ の後の研究の進展により情報を更新した方が良い点を いくつか発見しました。そこでこれから数回は、 こうした訂正内容を書いていきたいと思います。 その手始めとして今回は「マハレのサルたち」につ いての訂正です。

 まず第1回で取り上げた「アカコロブス」について です(2003年12月、マハレ珍聞2号9頁)。 そこでは「学名は、Procolobus badius」と書きま したが、その後の研究の進展により、アカコロブ スの分類は細分化され、マハレに生息する種の学名 はProcolobus rufomitratusとするのが一般的に なってきました。またこの場合、英名、和名はそれ ぞれEastern red colobus、ヒガシアカコロブス を使います。

 次に第4回で取り上げた「サバンナモンキー」 の学名についてです(2005年6月、マハレ珍 聞5号6頁)。以前は「例えば属の名前にしても、 ChlorocebusとするかCercopithecusとする かの議論が続いています」「マハレのサバンナ モンキーの学名はCercopithecus (aethiops) pygerythrus」と書きました。しかし現在では、 学名を「Chlorocebus pygerythrus」とし、和 名(英名)では、サバンナンモンキー(Savanna monkey)よりもベルベットモンキー(Vervet monkey)を使うのが一般的になってきていま す。



ベルベットモンキー(撮影 中村美知夫)


 最後に第7回で取り上げた「原猿」です (2006年12月、マハレ珍聞8号6頁) 。そこでは「マハレには、 ロリスの仲間に属するガラゴと呼ばれるグループに 属する2種の原猿の生息が知られています」と書き ましたが、その後のマハレにおける研究により、 少なくとも3 種のガラゴが生息している可能性が 出てきました。このうち2 種については以前に 記載した通りです。そして3 番目のガラゴは、 ショウガラゴ(Dwarf galago)の仲間と考えられて いますが、種の同定にはいたっていません。

このように、研究が進んでいると考えられるサルの 仲間でも、いまだに分類が確定していなかったり、 それぞれの種の分布が明らかになっていなかったり することもあります。こうしたあいまいさを解消 するためにも、チンパンジー以外のサルについても 地道に研究していくことが必要なのです。

(いほべ ひろし 椙山女学園大学)



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