マハレのサルたち

五百部 裕

第7回 原猿


オオガラゴ

南アフリカガラゴ


図上: オオガラゴ (Otolemur crassicaudatus
図下: 南アフリカガラゴ (Galago moholi
(J・キングドン 1997 "The Kingdon Field Guide to African Mammals"より)

 「原猿」とは、霊長類の祖先とよく似た特徴を持った仲間で、キツネザル、ロリス、メガネザルの三つのグループに大別されています。マハレには、ロリスの仲間に属するガラゴと呼ばれるグループに属する2種の原猿の生息が知られています。ガラゴの仲間は英語で「ブッシュベイビー」と呼ばれることがあり、アニメなどでこの名前をご存知の方もいるかと思います。マハレの2種は、多くの原猿の仲間と同じく、夜行性で大きな耳と目をした樹上生活者です。昼間は木の洞などの「巣」で過ごします。鼻面は突き出しており、鼻先は犬のように湿っています。さらに鉤爪と呼ばれる猫のような爪を足の第2指に持っています。これらの特徴は、ここまで紹介してきたサルの仲間には見られない原始的なものと考えられています。

 2種とも、樹脂を最もよく食べ、それ以外には昆虫などの小動物や果実、花などを食べています。いずれも1頭1頭がばらばらに生活する単独生活が基本ですが、ときに「ファミリーグループ」と呼ばれる血縁個体を中心とした集団が形成されることも知られています。なわばり防衛のためと考えられるラウドコールを持っており、この声が赤ちゃんの鳴き声に似ていることから、ブッシュベイビーという名前が付けられました。

 マハレに生息する1種目は、オオガラゴ(学名はOtolemur crassicaudatus)です。体重は1 kg程度で、ガラゴの中では最も大きな種です。赤道以南のアフリカに開く分布する種で、熱帯多雨林や疎開林、さらには海岸林など幅広い環境条件に適応しています。私がマハレに滞在していたときに、カンシアナ基地のイチジクの木に巣を作っており、夜な夜な大きな声で鳴いていました。

 2種目はモホールガラゴ、またの名を南アフリカガラゴ(学名はGalago moholi)と呼ばれる種です。以前は、マハレにはセネガルガラゴ(学名はGalago senegalensis)が生息していると考えられていましたが、分類や分布域の見直しからこちらの種だと考えられるようになってきています。体重は200 g程度の小さなガラゴです。ミオンボと呼ばれる植物を好み、この種が分布する疎開林が彼らの分布の中心です。

 夜行性で単独生活のため、マハレの原猿の生態や社会はまだまだわからないことだらけです。今後の研究が待たれるところです。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学・人間関係)


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