マハレのチンプ(ん?)紹介
第8回 オパール

紹介者 西田利貞

オパール

 1983年のMグループ入学生は、二人とも大柄だった。ピンキーとオパールである。2人とも人間に対して警戒心が強く、なかなか慣れなかった。しかし、実際には2人は対照的な性格の持ち主で、ピンキーが積極派、自信家であるのに対し、オパールは消極派で臆病だった。Mグループに移籍後20年たったときには、二人ともグループの中で地位を築き,子作りもうまくいっていた。とくに、オパールは、長女ルビー、長男オリオン、次男オスカーと3人を離乳させた。チンパンジーのお母さんは誰も子煩悩だが、オパールは特別だ。子供が吠えられたり叩かれたりしようものなら、すごい勢いで助けに飛び出す。もともと弱気で、喧嘩になれば必ず逃げ出す方だが、「母は強し」である。しかし、あまりに子供の喧嘩に口出しが過ぎるという印象を私はもっている。目玉が大きく、前頭の髪が薄い息子たちの顔は母親そっくりであるが、不思議なことに、長女ルビーだけちょっと顔つきが違う。ルビーは、身体は大きくないが、その向こう意気の強さは、Mグループ随一である。気に入らないことがあると、毛を逆立て身体を丸くして弾丸のように飛び出す。ルビーが婚出しなかったため、そしてルビーの次にオリオンという大きな息子が育ったので、オパール一家は今やMグループの最強の一族となった。ルビーの娘、ルビコンはオスカーより少し早く生まれた。つまり、姪の方が叔父さんより年長なのである。しかし、同年齢であるには違いなく、最上の遊び相手がお互いの手近にいるわけだ。オパールの母性愛は子供たちだけでは済まぬらしく、孫のルビコンは眼に入れても痛くないほどのかわいがりようである。ルビコンが母親のルビーのすぐ近くにいないことがよくあったが、そんなときはお婆ちゃんと行をともにしているのだ。私が忘れられない1つのエピソードがある。キャンプにはレモンの立派な林がある。どうしてできたのか知らないが、そこに幅30cm、深さ50cm ほどの穴があった。2歳のルビコンが誤って穴に落ちてしまったとき、母親も祖母も近くにいた。しかし、ルビコンを先に助けに行ったのは祖母の方だった。オリオンはオスカーを1歳過ぎからよく可愛がった。3歳のオスカーを背に乗せて"逆雑巾がけ"をやったこともある。この兄弟が2人とも大人になったとき、どんな協力が見られるのか、わくわくするほど楽しみである。

(にしだ としさだ、(財)日本モンキーセンター)



第8号目次に戻る次の記事へ