第5回「耳キノコ」― キクラゲ

中村 美知夫


 今回ご紹介するのは、日本人には中華素材 などでおなじみのキクラゲです。私のソウル・ フードである熊本ラーメンには必 ず細く切ったキクラゲが入ります。広義の「キクラゲ」 にはキクラゲの他にアラゲキクラゲ、シロキクラゲなど 複数の仲間が含まれます。私たちにはおなじみの食菌 なのですが、東アジア以外ではあまり食べる国はないそうです。

マハレでキクラゲを採ってキャンプに持ち帰ると、 学生などに「えっ、マハレにもキクラゲがあるんですか?」 と驚かれることがありますが、キクラゲは世界中に広く 分布するキノコで、比較的簡単に見つけることができます。 一般的に倒木などに生えることが多く、日本でもちょっと した木が集まっているようなところを探せばそれなりに 見つけることができます。マハレでは、乾季の間はカラカラに 干からびた状態で倒木に付いているため、なかなか目に付きませんが、 雨季になって雨が何回か降ると、水を吸って大きく育ちます。

 前回までに紹介したキノコについては、現地のトングウェ名も 紹介してきましたが、このキノコについては今のところトングウェ 名が分かっていません。たんに私がトングウェ名を調べきれていないのか、 それとももともとトングウェ名がないのかも不明です。 何人かのアシスタントに名前を聞きましたが、多くの人はたんに 「ウヨガ」と答えます。ウヨガとは、スワヒリ語で「キノコ」の 総称です。トングウェの人たちは日常的にはキクラゲを利用しないため、 個別の名称がないのかもしれません。

 しつこく「何というウヨガだ?」と聞くと、ある人は 「ウヨガ・マスィキオ」と答えました。マスィキオは スワヒリ語で「耳」のことですので、「耳キノコ」ということに なります。キクラゲは漢字で書くと「木耳」ですし、英語では Jew’s-ear(ユダヤ人の耳)、属名のAuricularia はラテン語で 「耳たぶ」の意味です。英語の名前には若干ユダヤ人への差別的な 意味合いが含まれている気がしなくもありませんが、どこの文化に おいてもキクラゲから「耳」を連想するのは共通のようです。

採りたてのキクラゲは、乾燥キクラゲを戻したものよりも 弾力があり歯ごたえもいいので、炒め物などにも向いています。 もちろん中華風スープや味噌汁に入れてもおいしく頂けます。


写真1 倒木に生えているキクラゲ。 写真2 雨季にはこのくらいの量は簡単に収穫できる。

(なかむら みちお 京都大学)



第24号目次に戻る次の記事へ