マハレのサルたち

五百部 裕

 マハレには、チンパンジー以外にも8種の霊長類が生息しています。そこでこのシリーズでは、マハレのことをよく知ってもらうために、これらのサルたちを順次紹介していきたいと思います。

第1回 アカコロブス


アカコロブス アカコロブス(学名は、Procolobus badius)は、オナガザル科コロブス亜科に属するサルです(写真1)。熱帯林を中心として、アフリカの広い範囲に分布しています。おとな雄の体重は10kg、おとな雌は7-8kg程度の中型のサルです。広い分布域を持つため、マハレのようにチンパンジーと同じ場所に生息することもよく見られます。
 彼らの最大の特徴は、木の葉食いに特殊化していることです。これは、彼らの胃がウシなどの反芻動物と同じようなつくりをしているためだと考えられています。すなわち、胃がいくつかの部屋に分かれていて、その前方の部屋に細菌が共生しているのです。そしてこの細菌が、普通のサルの胃では消化しにくい、木の葉に含まれるセルロースなどの二次化合物を分解しています。アカコロブスは、この細菌の生成物を消化・吸収しているのです。
 彼らは、複数のおとな雄とおとな雌からなる複雄複雌群を形成しています。群れの大きさは生息環境により異なりますが、30頭から80頭程度です。ちなみにマハレでは平均30頭程度です。また一つの群れの遊動域の広さは、マハレでは約30haです。そしてオナガザル科のサルの仲間では珍しく、雌が群れ間を移籍する、父系の群れをつくっています。
 アカコロブスのもう一つの特徴は、彼らがチンパンジーの主要な狩猟対象になっていることです。マハレでもここ10年ほどの間、アカコロブスがもっとも頻繁に、チンパンジーによって狩猟・肉食されています。そしてこの傾向は、マハレに限らず、チンパンジーとアカコロブスが同じ場所に生息するさまざまな調査地から報告されています。
 なぜチンパンジーはアカコロブスを好むのでしょうか? 実は1995年から、私はこの問いに答えようと、マハレのアカコロブスの研究を開始しました。狩猟する側、すなわちチンパンジーの側だけでなく、狩猟される側、すなわちアカコロブスの側から、チンパンジーの狩猟・肉食行動をもう一度考え直してみようという試みです。しかし残念ながら、当初の問いに対する明確な答えは、いまだ得られていません。マハレでの今後の研究から、この答えを導き出したいと考えています。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学・人間関係)


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