マハレのサルたち

五百部 裕

第4回 サバンナモンキー


サバンナモンキー

サバンナモンキー、またはミドリザルと呼ばれるサルは、これまで紹介してきたアカオザルなどと同様、オナガザル科オナガザル亜科に属しています。この亜科の中で樹上性の強い仲間を総称してグエノンと呼びますが、サバンナモンキーは地上性が強く、この点でグエノンの仲間と区別されます。一方でグエノンの仲間同様、このサルの分類もいまだはっきりとしていません。例えば属の名前にしても、ChlorocebusとするかCercopithecusとするかの議論が続いています。またこれに対応して種名にも混乱が見られます。さらに和名もサバンナモンキーやミドリザル、さらにはベルベットモンキーといったいろいろな名前が使われます。ただしいずれの分類方法でも、このサルの仲間はオナガザル亜科の中では最も広い分布域を持っていると考えます。具体的には、西アフリカのセネガルからギニア湾沿いの国々、サハラ砂漠の南縁の国々、さらには東アフリカのエチオピアやケニア、タンザニア、そしてザンビアやジンバブエ、南アフリカといった地域です。すなわちサハラ砂漠の南側でこのサルがいないのは、ギニア湾沿岸の熱帯多雨林地域と南部アフリカのカラハリ砂漠やナミブ砂漠といった乾燥地域だけと言っても過言ではありません。このようにこのサルは幅広い環境に適応しています。ちなみにもっとも一般的な分類では、マハレのサバンナモンキーの学名はCercopithecus (aethiops) pygerythrusとされ、この(亜)種の英名を考えるとベルベットモンキーと呼ぶ方がよいかもしれません。

 このサルはオナガザル亜科の中では平均的な大きなサルで、おとな雄の体重は4〜5 kg、おとな雌はおとな雄よりも一回り小さいといった程度です。黒い顔のまわりに白い毛が生えており、頭から背中にかけては黄色がかった灰色、腹側は白くなっています(写真)。睾丸が鮮やかなブルー、ペニスが真っ赤なので、おとな雄ではこの部分がとくに目立ちます。また、尾がたいへん長いのもこのサルの特徴の一つです。彼らは複数の雌雄からなる母系の複雄複雌群を形成します。群れの大きさは、地域によって大きく違いますが、マハレでは20〜30頭程度のようです。一つの群れの遊動域の広さは20〜30 ha程度です。果実や種子、花、葉、昆虫などいろいろな種類のものを食べる雑食性のサルです。

 広い分布域を持つサバンナモンキーですが、マハレのカソゲ地区では、カシハキャンプ周辺だけに分布しています。この分布パターンは、マハレにいるサルの中でもこのサルだけに見られるもので、マハレでの調査開始以来ほとんど変わっていません。調査開始時には同じように狭い分布域しか持っていなかったキイロヒヒが、現在分布域を大幅に拡大させているのとは極めて対照的です。なぜこのような違いが生じているのか? 今後解明しなければならない課題の一つです。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学・人間関係)


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