マハレのチンプ(ん?)紹介
第5回 ミヤ

紹介者 西田利貞

ミヤ
(撮影:座馬耕一郎)

なんだか様子がヘンだ。尾根の上で、浜井美弥さん等と遠くの樹上にいるチンパンジーたちを双眼鏡で見ていたときのこと。確かに、見知らぬ若いメスが1頭混じっている。それは間違いないのだが、メスの頭が揺れている風なのだ。1991年10月のことだった。近くで見てわかったのだが、彼女は首を振らずに静止させることができない。しかし、病気ではなさそうだ。他は問題なかった。怪我もなく、中肉中背で、かっしりした体格をしている。「ミヤという名前にしたよ」と告げると、浜井さんは苦笑した。自分の名前をつけてもらったのはいいが、よりもよって首振り人形に名がつけられるとは、といったところだったろうか。その後、上唇を反転させたり、毛づくろいするときしょっちゅう短く引っ掻くという別の癖もあることがわかった。ミヤが頭のよいことはすぐわかった。人間が危険でないと知ったら、あっという間に慣れてしまったからである。そして赤ん坊を産み、彼女の賢女ぶりはますますはっきりしてきた。なによりも彼女は感情が安定しており、小さい息子が年長の子供にいじめられフィンパーして泣き出しても、落ち着いていてすぐに回収しに行かない。通常のお母さんは、いじめっ子に吠えかかったり、押しのけたり、叩いたりして、わが子をすぐとり戻す。これは年長の子の反発を招き、次いでその母親が出てきて、母親同士の喧嘩になり、ついには大人の雄の誰かが飛び出して、ディスプレーの道具に赤ん坊がつかまり、放り投げられたりする事態になることもある。ミヤはそういう事態を避ける。また、なにか事件がおこりそうになると、彼女は平静に子供に近づき、その場をそっと離れる。おそらく、彼女は状況を見るに機敏なのだろう。その上、彼女は優しい性格で、孤児や順位が低くてあまり毛づくろいされない仲間を入念に毛づくろいしてやる。一方、大勢に好かれてよく毛づくろいを受けている。9歳の息子は中村美知夫君に因んでミチオ、4歳の娘はTBS『どうぶつ奇想天外』担当ディレクターの松谷光絵さんに因んでミツエと名づけた。好奇心に溢れた元気いっぱいの家族である。浜井さんにあれから14年たったミヤを見てもらいたい。彼女が満足することを私は確信している。

(にしだ としさだ、(財)日本モンキーセンター)



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