Pan Africa News 21(2)の記事から

タンザニア、マハレ山塊国立公園の 北部境界線付近のチンパンジーの分布
(by 座馬耕一郎, ルフンガ・ラマザニ, ブネングワ・ハミシ, バラカ・レハニ & シャカ・カブゴンガ) オリジナルの英文記事へ

 タンザニア、マハレ山塊国立公園の北部境界線付 近に生息するチンパンジーと大型哺乳類動物の分布 調査を行った。調査域はミオンボ林と竹藪が優占 し、川沿いに川辺林が発達する植生である。調査は 2008年から2014年にかけて行い、公園内外や境 界線上の計100.7km を踏査した。大型哺乳類は目 視や糞の形状から15種確認された。境界線上のチ ンパンジーの生息密度はミオンボ林が優占するウガ ラ地域とほぼ同じだった。公園外にもチンパンジー は分布し、人間の活動が多いタンガニィカ湖畔付近 よりも、湖岸から離れたカロブワ地域で高密度だっ た。マハレとカロブワの個体群間交流は、東部境界 線を踏査することで明らかにされるだろう。


野生チンパンジーでは初歩的な技術と生涯繁殖成功 が相関するが、なぜだろう?
(by コンスタンス・マックワース―ヤング & ウィ リアム・C・マックグルー) オリジナルの英文記事へ

 釣り棒という初歩的な技術を用いた動物性食物の 採食行動である「シロアリ釣り」が、チンパンジー のメスの生涯繁殖成功と関連があるか検討した。調 査はタンザニア、ゴンベ国立公園で行った。1972年 から3年間にわたり、17歳–18歳の経産メス 11頭について、採食に占めるシロアリ釣りの割合を 調べ、また2010年にそれらのメスの繁殖状況につ いて調査したところ、シロアリ釣りの時間割合が長 い個体は長命で、多くの子を残す傾向があった。ま た高順位個体は繁殖成功が高い傾向にあった。この 理由は、技術の差というよりも、順位による資源の 手にしやすさの差と関連があるように思われるが、 今後、より多くのデータを用いて検討を加える必要 がある。


チンパンジーの低い個体群密度は攻撃の「レベル」 の低さと関連するか?
(by デビット・サムソン & ケビン・D・ハント) オリジナルの英文記事へ

 個体群密度が集団内で起こる攻撃性と関連する かどうか検討した。ウガンダ、セムリキのサバン ナ拠水林では、約104頭で構成される集団が50– 72.1km2 の遊動域を持っており、個体群密度が低 い。2010年から2011年にかけて34.7時間の調査 を行ったところ、オスにのみ攻撃行動が観察され、 攻撃の頻度はパーティーサイズと正の相関があった。 セムリキの資料をウガンダのカニャワラ個体群やタ ンザニアのゴンベ個体群の資料と比較したところ、 個体群密度が低いほど攻撃の頻度が低かった。チン パンジーは損失の多い攻撃をできるだけ避けており、 広い遊動域を持つ個体群は出会いの頻度を減らすこ とができると考えられる。


樹上生活のリスク?―マハレのチンパンジーのアカ ンボウが樹上で死亡
(by 中村美知夫 & アブダラ・ラマザニ) オリジナルの英文記事へ

 チンパンジーにとって樹上は、捕食者回避などの 面で地上よりも安全であると考えられることが多い。 母親は、樹上にいるときのほうが地上よりもアカン ボウに対して放任主義的であり、樹上ではアカンボ ウが母親から離れていることが多い。私たちはター ニーの1歳になるアカンボウが樹上で枝に挟まれて 死んでいるのを発見した。状況から母親が採食中に たわませた枝が跳ね罠のように跳ね返り、たまたま そこにいたアカンボウが挟まれたものと考えられる。 こうした例は稀かもしれないが、今後チンパンジー にとっての樹上生活のリスクも再検討する必要があ るだろう。。


チンパンジー、ツチブタの死体と遭遇
(by 保坂和彦, 井上英治 & 藤本麻里子) オリジナルの英文記事へ

 2005年、マハレのチンパンジーがツチブタの死 体と遭遇した2事例の報告。1例目は、爪痕が多く 残りヒョウの捕食が死因とみられる新鮮な死体であ る。2例目は死因不明の腐乱死体である。いずれも 一部の個体が近づいて凝視したり臭いを嗅いだりと いう探索行動を示したが、新鮮な死体の方が反応は 激しく、また近づく個体も多かった。恐怖の情動表 出音声のうち、ラー(大音量)は1例目のみ、フー (小音量)は両事例で聞かれた。死因認知が反応の違 いに作用した可能性を考察した。ツチブタの肉を食 べる個体はなく、似た状況でブッシュバックを屍肉 食した先行研究と比較し、ツチブタが獲物として認 識されていないことが示唆された。


ギニア、ボッソウにおけるサバンナ植生の調査
(by 森村成樹, 大橋岳 & 松沢哲郎) オリジナルの英文記事へ

 ギニアのボッソウとニンバ山のチンパンジーを交 流させるため、その間のサバンナに植林する緑の回 廊計画が1997年より開始され、あずまやと草刈り を併用した方法が効果を発揮している。しかし自然 下にある樹種や、草刈りによる若木の成長効果に関 する情報がなかったため、植生調査を行った。2014 年1月に一度草刈りを行ったトランセクト1と、行 わなかったトランセクト2について2014年7–8 月に調査したところ、チンパンジーの食物11種を 含む18種が同定された。トランセクト1は2より も100cm以下の若木が多く、150–200cm の若木 が少なかったことから、草刈りは新しい若木を増や す効果があると考えられた。2014年には乾季にポ ンプで水を撒く研究も始まり、計画は大幅に加速さ れるだろう。




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