日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(A) 野生チンパンジーにおける新奇行動の展開と文化的行動の発達過程
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研究概要

実績報告 野外調査 業績

平成18年度研究概要

平成17年度研究概要へ

井上英治

父子判定を行なうために必要な子供からの遺伝試料として、一般的に用いられている糞や毛より、唾液や尿の方が適していることを示した。これらの遺伝試料をもとに11頭の父子判定をし、10頭の父親を決定でき、残り1頭は父親候補を2頭に絞り込んだ。群れ外婚の可能性はほとんどないことがわかった。
・キーワード
チンパンジー、父性解析、非侵襲的サンプリング、マイクロサテライト遺伝子、繁殖行動、血縁度

中村美知夫

前年度から継続して、隣接集団間での「文化的」行動を直接比較するため、Y集団の人づけをおこなった。まだ詳細な観察ができるまでには至っていないが、糞分析や遊動ルートから、同じ時期であるにも関わらず数kmしか離れていない2つの集団で異なる種類の食物を利用している可能性があることが明らかになりつつある。今回は、M集団では見向きもされないCissusの蔓をワッジにして食べている証拠が確認された。
・キーワード
チンパンジー、隣接集団、行動比較、文化、食性

西田利貞

過年度のビデオ録画をプレーバックして、1999-2005年度前半までの映像記録を文書化し、それをもとに2003年度までの資料をエクセルにインプットした。いくつかの文化行動(オオアリ釣り、水中投擲行動、口拭い行動、対角毛づくろい、水鏡行動など)については、年齢の異なる個体について十分な資料が得られたので、行動発達の分析をはじめた。
・キーワード
チンパンジー、新奇行動、発達、遊び、学習、文化

花村俊吉

・昨年度に引き続きメスを中心に観察をおこない、遊動ルートと他個体との相互行為、および長距離音声の聴取行為についてのデータを収集し、それらの分析を始めた。
・2006年6月7月に調査対象集団でインフルエンザ様の感染症が流行した。その感染症の症状、感染症に罹った個体数や死亡個体数の把握、病中の行動記録などを分析した。また、感染経路として近年増加している観光客の影響が懸念されるため、研究者・公園職員・観光客を含め、チンパンジー観察時の病気の感染を防ぐためのいくつかの提言をまとめた。
・2006年8月13日から17日の5日間、マハレ山塊国立公園中北部のチンパンジーと大型哺乳類等の生息状況、および人為撹乱についての予備的調査をおこなった。
・キーワード
チンパンジー、遊動、相互行為、社会関係、長距離音声、メスの移出入、離合集散

藤本麻里子

オトナオス7個体、オトナメス7個体を個体追跡し、チンパンジーが他個体を至近距離からじっと見つめる、覗き込み行動 (Peering Behavior) についてデータを収集した。近縁種のボノボで報告されている覗き込み行動にはなかった特徴として、複数個体が1個体を覗きこむ事例が多数観察された。また、年少個体が年長個体を覗き込む事例が多いことは、ボノボと共通する特徴だった。ビデオとフィールドノートのデータから、個体間の相互交渉の詳細な分析を進めている。
・キーワード
チンパンジー、覗き込み行動、相互交渉、ボノボ

保坂和彦

前年資料を用いて、チンパンジーがツチブタの死体に遭遇した2事例を比較した。新鮮な死体の方が腐乱死体より興奮と好奇的行動を喚起した。爪痕などからヒョウの存在を認知したことが影響したものと考えた。また、狩猟対象動物の新鮮な死体を屍肉食することはあっても、非狩猟対象動物の死体は食べないことが示された。今後は他地域資料との比較を視野に入れ、狩猟対象、屍肉食傾向の地域変異を探っていきたい。
・キーワード
チンパンジー、ツチブタ、狩猟行動、肉食、死体に対する反応、好奇的行動、屍肉食仮説

松本晶子

長期収集された資料をもとに、チンパンジーのメスの発情日の抽出と同期程度分析をおこなった。その結果、Mグループのチンパンジーでは互いに発情をずらせていたことが明らかになった。結果は論文に作成し、出版された。
・キーワード
発情、さけあい、配偶者選択

平成17年度研究概要

平成16年度研究概要へ

井上英治

チンパンジーの雄、雌を個体追跡して、他個体との近接距離や交尾行動などのデータを収集した。また、遺伝試料として、糞、尿などを採取した。様々な種類の遺伝試料からDNAを抽出し、マイクロサテライト遺伝子の解析方法を整えた。
・キーワード
チンパンジー、父性解析、非侵襲的サンプリング、マイクロサテライト遺伝子、繁殖行動、血縁度

佐々木均

 平成14年度に採集した吸血性アブ類の同定を行い、過去2回の調査で得られたデータ、および、京大アフリカセンター所蔵標本の同定によって得られたデータと合わせてモノグラフを作成し、公表した。
・キーワード
チンパンジー、吸血性アブ類、NZIトラップ

座馬耕一郎

平成16年度に収集したビデオ資料、シラミ卵寄生率の資料を分析した。シラミ卵は、チンパンジーの毛1000本あたり約2個寄生していた。これは先行研究にあるニホンザルのシラミ寄生率に比べて高かった。現在、毛づくろいのビデオ資料から、アカンボウ期からコドモ期にかけての外部寄生虫除去行動のやり方と効率を分析している。
・キーワード
チンパンジー、毛づくろい行動、外部寄生虫、シラミ、発達

中村美知夫

隣接集団間で「文化的」行動を直接比較するため、M集団の北に遊動域を持つY集団の人づけに着手した。まだ詳細な観察ができるまでには至っていないが、糞分析や遊動ルートから、同じ時期であるにも関わらず数kmしか離れていない2つの集団で異なる種類の食物を利用している(M集団のMyrianthusとY集団のScolopia)可能性があることが明らかになった。また、Y集団では、オオアリ(C. brutus)を大量に食べている可能性がある。
・キーワード
チンパンジー、隣接集団、行動比較、文化、食性

西江仁徳

・集団のアルファオスの失踪と順位下落に関する社会学的分析
・アリ釣り行動の道具性についての現象・社会学的分析
・アリ釣り行動全般に関する生態学的分析
・アリ釣り場面における社会交渉の分析
・キーワード
チンパンジー、道具使用、社会変動、コミュニケーション、文化、発達、順位、社会構造

西田利貞

主として、過年度の観察対象個体(現在、3〜10歳)を引き続き観察して、行動の発達を調べた。過年度発見された新奇行動のうち、腹たたき〔威嚇ディスプレー〕と口による赤ん坊運びが、他の個体に伝播しているという証拠は見つからなかった。
・キーワード
チンパンジー、新奇行動、発達、遊び、学習、文化
・資料の収集
ビデオ映像ミニDVテープ46本(80分)

橋本千絵

前年度までのデータをもとに、ウガンダ共和国カリンズ森林のチンパンジーにおける、メスの性行動について分析を行った。その結果、カリンズ森林のメスのチンパンジーの交尾頻度は、先行研究における他調査地の交尾頻度よりかなり高いことがわかった。また、ボノボの性行動と比較分析した結果、チンパンジーのメスの方が、ボノボのメスよりも積極的に交尾に関わっていることがわかった。
・キーワード
カリンズ森林、メスの交尾頻度、チンパンジー、ボノボ、比較

花村俊吉

・集団間を移出入するメスが、新たな集団で離合集散する他個体とどのような社会関係を形成しているかについて調べた。移出前のメス、移入直後のメス、移入後数年のメス、移入後長年たつメスの観察をおこない、遊動ルートと他個体との相互行為、および長距離音声の聴取行為についてのデータを収集した。遊動ルートの記録にはGPSを用い、オスの遊動ルートとの対応についても記録した。
・キーワード
チンパンジー、遊動、相互行為、社会関係、長距離音声、メスの移出入、離合集散

藤田志歩

2004年度の調査で持ち帰った糞サンプルを用いて、腸内常在細菌であり、有害作用のあるウェルシュ菌の保有状況について調べた。飼育下のチンパンジーから採集したサンプルに比べ、マハレのサンプルではウェルシュ菌の検出率が有意に低く、また、他の野生集団と比較しても低いことが明らかとなった。同様に、持ち帰った糞サンプルからホルモンを抽出し、内分泌動態について調べた。これについては現在解析中である。
・キーワード
チンパンジー、ウェルシュ菌、腸内細菌、nested PCR、内分泌

保坂和彦

マハレのチンパンジーによる狩猟のパターンは、世代が替わっても以前と大きく違っていないようである。しかし、獲物の対捕食者行動が変化している可能性があり、チンパンジーの獲物選択、狩猟戦略にも微妙な変化を及ぼしているかもしれない。とくに、オトナ雄のアカコロブスが攻撃的になったことを示唆する観察がある。これに対抗しようとする若いチンパンジーがおり、他個体の行動にも伝播するか、明らかにしていく必要がある。

松本晶子

 これまでに収集した資料をもとに、チンパンジーの嗅覚に関連する行動の抽出と分析をおこなった。その結果、チンパンジーがどのような状況でにおい行動をおこなうのかには性差と季節性が見つかった。結果を論文に作成し、投稿した。
・キーワード
嗅覚、においかぎ行動、性差、季節性

平成16年度研究概要

平成17年度研究概要へ

井上英治

チンパンジーの遺伝試料からDNAの抽出を行なった。野外調査にて、チンパンジーの雄、雌を個体追跡して、他個体との近接距離や交尾行動などのデータを収集した。また、遺伝試料として、糞、尿などを採取した。
・キーワード
チンパンジー、父性解析、非侵襲的サンプリング、マイクロサテライト遺伝子、繁殖行動、血縁度

座馬耕一郎

アカンボウ期からコドモ期のチンパンジー(2.8〜6.2歳)8頭を追跡し、128.1時間の資料を得た。アカンボウーコドモ期の毛づくろいの発達を明らかにするために、毛づくろいについては行動をビデオカメラで記録した。また、アルファオスの毛づくろいの外部寄生虫除去効率を調べるため、新旧アルファオス、FNとALを32.7時間追跡した。チンパンジーのベッドから毛を採集し、シラミの卵の寄生率を求めた。
・キーワード
チンパンジー、毛づくろい行動、外部寄生虫、シラミ、発達、アルファオス

中村美知夫

「文化的」な毛づくろいとして知られる対角毛づくろいの発達について、さまざまな年齢の子供がいるオトナメス10頭を対象として個体追跡をし(追跡時間:計258時間)、おもに母子間の毛づくろいに注目してデータを集めた。データの収集には、ビデオによる録画とテープへの口述筆記を併用した。5歳のときに対角毛づくろいが観察されているXMが9歳になった現在、母親以外にも数頭のオトナメスや13歳のワカモノオスPRと対角毛づくろいをすることが確認された。
・キーワード
チンパンジー、毛づくろい行動、社会行動、文化、発達

西江仁徳

・チンパンジーのアリ釣り行動全般に関するデータ収集・分析
・アルファオス失踪後の経過、社会変動に関するデータ収集・分析
・キーワード
チンパンジー、道具使用、社会変動、コミュニケーション、文化、発達、順位、社会構造

西田利貞

チンパンジーの新奇行動のうち、腹叩き、首銜え運搬、砂遊び、水鏡、地面毛づくろい、などについてビデオ録画した。また、ソシアル・スクラッチ、対面毛づくろい、リーフクリップ、シュラッブベンド、ピルエット、リーフパイル・プルなどの、確立した文化行動について個体変異を調査した。ミヤコ谷で撮影班が餌づけ中のYグループを観察、2頭に命名し(大人オス=シブリ、若者メス=ニョタ)ビデオ撮影にも成功した。
・キーワード
チンパンジー、新奇行動、威嚇行動、毛づくろい、遊び、行動の個体変異、文化、発達

橋本千絵

ウガンダ共和国カリンズ森林の野生チンパンジーを対象に、メスの性行動について調査を行った。発情メスを個体追跡し、交尾頻度、交尾に至る行動シークエンス、相手オス、パーティサイズについて記録した。また、母子間の関係について調査を行った。アカンボウ持ちのメスを個体追跡し、母子間の距離、母子それぞれの行動について記録を行った。
・キーワード
チンパンジー、カリンズ森林、交尾頻度、母子関係

藤田志歩

 メスのエネルギー収支と生殖内分泌動態との関連について調べるため、1日1個体(対象:CA、NK、TE、PI、XT、AT)を終日追跡し、活動時間配分および食物内容を記録するともに、GPSを用いて遊動距離を測定した。また、ホルモン濃度を測定するための糞サンプルを採集した。
 チンパンジーの健康状態のモニタリング、および腸内細菌叢の分子生態学的解析を目的として、尿(112サンプル)および糞(149個)を採集した。
・キーワード
チンパンジー、繁殖、エネルギー収支、内分泌、活動、GPS、健康モニタ

松本晶子

 これまでに収集した資料をもとに、チンパンジーの聴覚に関連する行動の抽出と分析をおこなった。その結果、他者も音の生起と事象の因果関係を理解しているという他者の理解のもとで、チンパンジーが音をコントロールしたり、音が出てしまった場合に別の行動を装うことができるかもしれないということが示唆された。結果は論文として発表した。
・キーワード
リーフ・クリッピング行動、聴覚、音のコントロール、因果関係の理解