日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(A) 野生チンパンジーにおける新奇行動の展開と文化的行動の発達過程
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野外調査

業績

平成18年度野外調査

平成17年度野外調査へ

中村美知夫

・調査期間
2006年9月14日〜11月5日(日本発着)
※ただし、旅費の支出は科研費からではない。
・おもにM集団に隣接するY集団の研究をおこなった。人付けにはまだ時間がかかりそうであるが、この時期はおおまかに声で追跡することが可能になってきている。直接観察は頻度が少ないが、糞分析から、食性の違いが明らかになってきている。
M集団では、おもに母親を亡くしたMEとPFの行動に着目して観察をおこなった。

花村俊吉

・調査期間
2006年4月1日(昨年度からの継続)〜2006年10月15日(日本着)
・観察事例
−2006年6月から7月にかけて、M集団にインフルエンザ様の感染症が流行し、全体の少なくとも約35%が病気の症状を示し、最大で12頭が病気によって死亡した。
−2006年7月24日、後にVR(ベラ)と命名される新入りメスがM集団で観察された。昨年度現れた新入りメスYRと同じく、在住個体からの攻撃は目立たず、むしろ在住個体との毛づくろいが目立った。また、コドモたちとさかんに遊んでいた。人馴れがははやい点もYRと同様である。移入当初は、M集団に特異的な食物であると考えられるレモンを食べなかったが、他個体のレモン食いをしきりに覗き込んでおり、遅くとも1月後にはレモンを食べるようになっていた。
・収集資料
フィールドノート25冊、写真800枚、病死したチンパンジーの死体2体、病気個体の糞尿

藤本麻里子

・調査期間
2006年4月1日(昨年度からの継続)〜2006年5月14日(日本着)
・観察対象
チンパンジーの覗き込み行動(Peering behavior)についてのデータを収集するために、オス8個体(DE, AL, BB, PM, DW, PR, OR, FN)、メス7個体(WX, XT, CY, TZ, OP, AB, ZL)を終日個体追跡した。

平成17年度野外調査

平成16年度野外調査へ

井上英治

・調査期間
2004年10月6日〜2005年10月5日(日本発着)
・観察対象
繁殖行動のデータを収集するために、雄個体、DE, MA, FN, AL, BB, CT, PM, DW, PR, OR, CDと発情していたメスPI, XT, LD, MJ, EF, CA, NKを個体追跡した。また、遺伝試料採取のため、昨年採取できていない個体を中心に追跡をした。
・観察事例など
−前1位雄であるFNは1人でいることが多かったが、現2位の雄BBに一日だけ優位に振舞った。それ以外のときは、1位AL、2位BB、3位PMに劣位の表れである挨拶行動をしていた。 −移出したと思われていたIVが群れに一度戻り、数ヶ月して再び姿を消した。一度、他の群れに行ったあと少しの間、群れに戻っていたのであろう。
−新鮮なツチブタの死体を発見したが、食べなかった。
−XMが雨期にできた水溜りに、腰まで浸かってバシャバシャと水遊びをした。

中村美知夫

・調査期間
2005年8月20日〜12月12日(日本発着)
※ただし、旅費の支出は科研費からではない。
・2005年9月24日に、M集団に新しく移入したメス(ユリYRと命名)が観察された。新入メスにしてはよく慣れており、移入直後のメスの行動の観察ができた。在住個体との毛づくろいや交尾が観察されたが、直接的な攻撃はほとんど受けなかった。文化的な行動としては、移入初日から対角毛づくろいとリーフグルーミングをおこなうところが観察された。

西田利貞

・調査期間
2005年9月17日〜10月23日(日本発着)マハレ滞在26日。
大人のメス(XT, AK, OP, RB, IK, MJ, EF, LD, AB, WX, FT, TZ, PI)と、その子供(赤ん坊期からこども期)の行動をおもに観察した。観察時間は3−10時間程度(ビデオ撮影できる程度に近い距離にいたときに限る)。大人のオス、若者のオス、メスはターゲットの母子を見失ったときに観察した。
身振り文化: (1) ACが、AK のよくおこなうground grooming をした。(2) XTとXMが、昨年度に引き続き、何度もGHCをした。
技術文化:(1) Kaposo の実の硬い殻を割るのは大人でも苦労する。ATは割れたが、EMは割れなかった。(2) OSがレモン汁、MEがサカマの汁のついた口を、それぞれレモンの枝、蔓の葉で拭いた。WXは、(おそらく、赤ん坊の大便か小便で)汚れた太腿をイロンボの葉4枚で拭いた。
(3) RCがサカマの実で、球投げや球ころがしをした。MCの芸を思い出させた。(4) MEは、すでにitungul の茎を上手に取り出し、食べることができる。(5) MCが昨年に引き続き、よく石投げをした。(6) 道標を立てるために、盛り砂があちこちにあるが、この盛り砂が遊び心を刺激するらしく、ACが転がったり、滑ったりしていた。ヒトの「砂場の起源」である。
発達: (1) MCは、DEをよく追従するようになった。(2) XPが迷子になって大騒ぎした。ORがXPを抱いて慰めた。(2) OSとTEが、OPi と対面しつつ、後退して歩いた。赤ん坊に対する歩行訓練である可能性がある。(3) EMは、4−5回連続ピルエットができるが、遅い。TDも4−5回できる。 (4) GWがOPi を世話した。GWはPFの世話をやめ、OPi に乗り換えるのかもしれない。
その他:DEは自分の排泄した便をスカラベが分解し、こねあげて球にし、2匹で転がすのをじっと〔少なくとも10分間〕観察していた!

花村俊吉

・調査期間 2005年10月16日(日本発)〜2006年3月31日(来年度へ継続)
・収集資料
フィールドノート25冊、写真700枚

藤本麻里子

・調査期間
2005年5月14日(日本発)〜2006年3月31日(来年度へ継続)
・観察対象
チンパンジーの覗き込み行動(Peering behavior)についてのデータを収集するために、オス8個体(DE, AL, BB, PM, DW, PR, OR, FN)、メス7個体(WX, XT, CY, TZ, OP, AB, ZL)を終日個体追跡した。
・観察事例など
−2005年12月5日に、マハレ山塊国立公園のほぼ真下を震源とする、マグニチュード6.8の地震が発生し、その後1ヶ月にわたって余震が頻発した。地震に対するチンパンジーの反応を詳細に記録した。ワカモノメスのTEが地震の揺れを確認するかのように、地面に掌を当てる行動を示した。
−MCが川原で自分の顔を水面に映して顔を揺らす、水鏡と呼ばれる行動を示すのを観察した。MCはこのとき、口に水を含み、顔を左右に振りながら水を飛ばすという、水鏡のバリエーションと考えられる行動を示した。
−CDがパントフートのクライマックス時に自分のお腹を掌で叩く行動を示した。
−前αオスのFNが背中に大きな怪我を負っているのを確認した。怪我を負ったFNと遭遇したPR, CT, XMのうち、当時第4位と見られていたPRがFNにディスプレイを行い、FNがPRにパントグラントを発するのを観察した。

保坂和彦

・調査期間
2005年7月30日〜9月19日(日本発着)
・旅行経路
往路:羽田−(関空・ドバイ経由)→ダルエスサラーム→キゴマ(ここまで空路)→マハレ(水路)
復路:マハレ→キゴマ(水路)→ダルエスサラーム−(関空・ドバイ経由)→羽田(ここまで空路)
観察の要点(378文字):
・ DE(推定42歳♂)を47.2時間, MA(28歳♂)を49.4時間個体追跡した。さらに、64.7時間アドリブ観察した。総観察時間の約3分の1に当たる50時間は、ビデオ資料である。
・ 優劣闘争の中核であり続けたDE、低順位が長かったMAという対照的な雄の現時点の社会的役割を比較すると、過去の経歴だけでなく、年齢という因子が強く影響することが示唆される。
・ ツチブタの死体と遭遇する場面を2例観察した。うち1例はヒョウが殺したと推定される新鮮な死体、もう1例は死因不明の腐乱死体であった。新鮮な死体の方が腐乱死体よりも「恐れ」の情動を表出させた。前者は、ヒョウの存在を推測する手がかりとなるのかもしれない。また、ブッシュバックの死体を見つけた場合と異なり、ツチブタの死体は屍肉食しなかった。獲物として認知していない動物は屍肉食の対象にもならないのかもしれない。

平成16年度野外調査

平成17年度野外調査へ

井上英治

・調査期間
2004年10月6日〜2005年10月5日
・観察対象
繁殖行動のデータを収集するために、雄個体、DE, MA, FN, AL, BB, CT, PM, DW, PR, OR, CDと発情していたメスPI, XT, LD, MJ, EF, CA, NKを個体追跡した。また、遺伝試料採取のため、昨年採取できていない個体を中心に追跡をした。

佐々木均

・調査期間
2004年10月27日〜11月24日(日本発着)
マハレ滞在19日間
カンシアナの疎林にNZIトラップを設置して吸血性アブ類を捕獲した。また、チンパンジーの追跡に同行して随時吸血性アブを採集した。

座馬耕一郎

・調査期間
2004年5月9日〜8月8日(日本発着)
野外調査5月15日〜7月30日
※ ただし、旅費の支出は科研費からではない。
・資料の収集
ビデオ映像ミニDVテープ75本(60分)
写真約1500枚
※ ただし、フィルム、ビデオテープの支出は科研費からではない。
・コドモ期のメスであるフラビアが母親が手に持っている肉塊をねだる際、母親が口で切り分けた肉を差し出してきたにもかかわらず、それを拒否する事例を観察した。
・7月25日に、集団から離れて移動するFNを追跡した。その時期に集団がよく使っていたシンシバ川-R3付近の移動は、音を立てないはや歩きで通り過ぎ緊張気味だったが、シンシバ・スワンプで地上性草本の薮に入ると安心したように草本の採食をした。
・観光客キャンプに集団が入った際、落ちていたバナナをMJが食べた。

中村美知夫

・調査期間
2004年8月20日〜10月31日(日本発着)
※ ただし、旅費の支出は科研費からではない。
・資料の収集
ビデオ映像約50本
・ルロベとムサバサバが豊作であった。
・キイロヒヒの狩猟は定着したのか、再度観察した。
・ブッシュピッグを食べるところは個人的には初めて見た。
・XTがブホノの根を食べるところを初めて見た。
・キャンプへの行き帰りの際にGPSを用いてMグループ遊動域内の観察路の測量をおこなった。
・西江・キトペニマ・ジュマ・ムウィヌカらとハレ南部域(ルブグウェ河口からカクンジラ山を経てカリヤまで)の広域調査をおこなった。ルブグウェ川、ムスマ谷、カティンバ谷、ルンビエ川、ムシランブラ川支流等に5箇所にかたまって、ベッド、糞、食痕、音声などのチンパンジーの証拠が発見された。地形などの状況から、これらがそれぞれ別の単位集団であることが示唆される。

西江仁徳

・調査期間
2004年4月1日〜10月18日(現地集合〜日本着)
※ ただし、旅費の支出は科研費からではない。
・資料の収集
野帳50冊
写真フィルム60本(2160枚)

西田利貞

・調査期間
2004年8月7日〜9月20日(日本発着)
野外調査8月13日〜9月15日
・ 政治: (1) DEとPMが連合して悲鳴をあげながら、BBを攻撃した。DEの悲鳴はALを呼ぶためと思われたが、ALはCAをherd中で、干渉しなかった。(2) DEがMA, BB, PMらをアジって、ALを攻撃させようとしたが、ALは逆にcharge して負けなかった。(3) ALが他の大人雄全員による集団攻撃に遭い、悲鳴を上げ続けたが、DEが最後にALの横に座って支持を表明したため、順位下落はおこらなかった。
・ スポーツ: シンシバのスワンプ近くの丘で、アカコロブスの大人雄が地面におりてチャージしたため、AL, BBを含む大勢のチンパンジーが皆、逃げてしまった。
・ 文化: MJとMCが初めてGHCした。IKとIMのGHCも初めてみた。TEがleaf-clipした。AKはMグループの中で、stroke type とpoke typeの双方を示す唯一の個体だが、娘のACはstroke type しか示さなかった。
・ キャンプ: ヒヒが台所の焼き魚を盗むのを初めて見た。
・資料の収集
ビデオ映像ミニDVテープ80本(60分)

橋本千絵

・調査期間
2004年8月3日〜2004年11月6日(日本発着、西田科研費での出張)
2004年11月30日〜2005年 1月4日(日本発着)
2005年2月3日〜2005年3月2日(日本発着)
・旅行経路
関西空港(EK)→ドバイ(EK)→エンテベ(陸路)→カリンズ(復路はこの逆)
・観察の要点
−オトナのメス(発情・非発情)の追跡をし、交尾に関するデータを収集した。
−子持ちのメスに関しては、母子間の距離、母子の行動などについて記録をした。
−調査期間中、オトナのメス(Kn)が出産した。臨月のときと出産後のKnの観察ができた。
−カリンズMグループの個体の識別をほぼ終了した。

藤田志歩

・調査経路
2004年12月11日〜2005年2月28日(日本発着)(1月3〜12日一時帰国)
・旅行経路
名古屋(TG)→バンコク(TG)→ドバイ(EK)→ダルエスサラーム(空路)→キゴマ(水路)→マハレ ※復路はこの逆
・観察事例
−NKが4時間の間に8頭のオス(AL, BB, CD, DW, MC, PM, PR)と計10回交尾 をした。NKはその間に自分に付着した精液を取って食べた。
−AL とCA がコンソート中に、増水したルブルング川をALが先に渡渉した。 CAが渡渉に躊躇していたところ、ALがCAの手を引っ張って渡渉に成功させた。
−IVが木を背もたれにして「ばんざい」の格好をしてCDにグルーミングしてもらった。リクライニングチェア?