第19回 オレンジ穴キノコ―ラッシタケの仲間

中村 美知夫


 色といい、形といい、かなり特徴的です。明るいオレンジ色で、裏面には蜂の巣のような無数の穴。キノコにあるこういう穴を「管孔(かんこう)」と言います。管孔については本連載の第14回でも触れましたが、その際間違えて「菅孔」と書いていました。正しくは、草冠ではなく竹冠です。この場を借りて訂正いたします。



写真1 倒木に密生したFavolaschia caloceraと思われるキノコ。きれいなオレンジ色をしている。



 気を取り直して、特徴を打ち込んでネットで画像検索してみます。すぐに似たキノコが出てきました。Favolaschia caloceraで間違いなさそうです。英名は、ズバリ「orange pore fungus(オレンジ穴キノコ)」。別名として、「orange pore conch(オレンジ穴巻貝)」とか「orange ping-pong bat(オレンジ卓球ラケット)」とかいうものも。日本語のページはほとんどヒットしないところをみると、日本には分布しないか、ほとんど見られないかどちらかなのでしょう。
 属名のFavolaschiaは、ラテン語の「favus(蜂の巣)」が由来、種小名は「美しく蝋質の」という意味なんだとか。日本語ではラッシタケ属と言いますが、辞書的には「らっし」と読む語は「臈次」(出家後の年数のこと)しか見つかりません。この語は「ろうじ」→「らっし」と音変化したようなので、ひょっとしたら同じく「ろうじ」と読む「蝋地」(蝋をひいたような地質のこと)が「らっし」に変化したのかもしれません。臈次茸だと意味不明ですが、蝋地茸ならば理解可能です。



写真2 裏側には蜂の巣状の穴が見られる。



 図鑑『日本のきのこ』で調べると、ラッシタケ属全体でたった4分の1ページほどの説明しかありません。コツブラッシタケ(F. fujisanensis)とニカワアナタケ(F. nipponica)の写真が載っていますが、形はよく似ています。ただ、色はいずれも地味です。ラッシタケ属としては他3種が日本で見られるそうです。
 さて、このオレンジ穴キノコ、英語のWikipediaには、少し詳しい説明があって、欧米やオセアニアでは侵略種として認知されているようです。最初マダガスカルで記載された後、1950年代からニュージーランドで外来種として見られるようになり、ヨーロッパ各国やアメリカ大陸など世界中に広がったのだそうです。場所によっては在来種と置き換わる問題も指摘されています。おそらく国際的な木材取引で広がったのでしょう。キノコの世界もグローバル化と無縁ではないようです。すでに日本にも上陸しているのかもしれませんね。


(なかむら みちお・京都大学)


参考文献
今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(編)2011. 『日本のきのこ―増補改訂新版』山と渓谷社
Wikipedia online. Favolaschia calocera. https://en.wikipedia.org/wiki/Favolaschia_calocera, 2021年11月30日アクセス



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