第14回 傘の裏がスポンジ状のキノコ―イグチの仲間

中村 美知夫


 キノコは季節物です。しかしながら、同じ季節であっても、毎年同じキノコが見つかるかというと、必ずしもそういうわけでもありません。
 2018 年11 月のマハレでは、写真1のようなキノコが至る所で生えているのが見られました。柄はずんぐりとしていて、傘もかなり分厚いキノコです。傘の表には光沢があります。写真2である程度大きさが分かるかと思いますが、けっこうなサイズです。こんなキノコが、近い場所に何本か隣接して生えているので、近くを通りかかれば見逃すはずはありません。にもかかわらず、私が記憶している限り、マハレでこのキノコを見たのはこの年が初めてでした。



写真1下にあるシャープペンと比べるとけっこうな大きさであることが分かる



 傘の裏にはスポンジ状の小さな穴がたくさん開いています(写真2)。この小さな穴は「菅孔」と呼ばれるもので、イグチと総称されるキノコの仲間が持つ特徴の一つです。



写真2 傘の裏面にはびっしりと細かい穴が開いている



 私たちが日常的に食用にするキノコの多くには、菅孔ではなくて、放射状のひだがあります。分かりやすいのはシイタケです。焼いて食べる場合なんかは、ひだのある面を上にして、醤油を垂らしますね。ブナシメジやエノキタケ、ナメコ、マツタケにもやはり傘の裏にひだがあります。ただ、これらのキノコは傘がまだ開いていない状態で売られているので、ちょっと分かりにくいかもしれません。今度食べる時に、傘の裏面をよく見てみて下さい。
 こうしたひだのあるキノコは、ハラタケ目のキノコの仲間です。一方、イグチの仲間は、イグチ目イグチ科に分類されます(かつてはハラタケ目イグチ科と分類されていました)。現在では目レベルで異なるので、私たちにおなじみのハラタケ類とはちょっと遠縁のキノコだと言えばよいでしょうか。
 イグチの仲間にも美味しいものがたくさんあって、例えばイタリア料理で使われるポルチーニ茸がそうです。日本でお目にかかるポルチーニ茸はスライスされて乾燥されたものがほとんどですが、ネットなどでその全体像を見ると、まさしくイグチの仲間であることが見て取れます。ちなみに、ポルチーニというのはイタリア語で「子豚」を意味する俗称。正式にはヤマドリタケと言います。日本で見られるヤマドリタケモドキもポルチーニと近縁な仲間で、美味しく食べられます。
 この写真のイグチも美味しそうに見えます。しかし、イグチの仲間にも有毒種があるということなので、同定ができない状態で食べることはやめておきました。

(なかむら みちお・京都大学)





第33号目次に戻る次の記事へ