Pan Africa News 26(1)の記事から

タイのチンパンジー研究40 周年を記念した国際シンポジウム
(by 中村美知夫) オリジナルの英文記事へ

 コートジボワールのタイ森林でのチンパンジー調査が40 周年を迎えたことを記念した国際シンポジウムが、2019 年5 月29 日から31 日まで、ドイツのライプツィヒにあるマックス・プランク進化人類学研究所で開催された。タイでの研究を開始したクリストフ・ボッシュ博士は今年マックス・プランクから停年退職することになっており、それを祝する会でもあった。各国から40 名ほどの研究者が招待され、多くの学生も参加する盛大な会であった。


5 歳のチンパンジーが独りで遊動―遊動における独立とは
(by 中村美知夫、西江仁徳) オリジナルの英文記事へ

 2018 年8 〜 9 月に、マハレM 集団の5 歳の雌の孤児が単独遊動していた二つの事例を報告する。一例では少なくとも5 時間にわたって単独であった。その間果実の採食はできていたが、一度も地面に降りず、樹から樹へ移ることで2 キロほどを移動した。また、最終的に他の個体たちの声が近づくまでは、一度も声を発することはなかった。この事例は、コドモ期のチンパンジーが遊動で独立していないのは、食物を見つけることができないからというよりも、独りで遊動することに伴う不安があるからである可能性を示唆する。


ワンバのボノボで観察された、罠の後遺症が重大事故の原因となった事例の報告
(by 徳山奈帆子) オリジナルの英文記事へ

ワンバPE 集団のオス・ガイは、ワイヤー製のくくり罠に2 回かかった後遺症で両手が不自由である。2017 年11 月12 日早朝、ガイが木の股の狭くなった部分に左手を挟まれて動けなくなっているのを発見した。右手が動かないため、体を引き上げることができず脱出できない様子だった。状況証拠からして、前日の夜から挟まれていたようだった。ガイの自力での脱出は不可能と判断して木を切り倒しての救出を行い、ガイは走り去った。19 日後、ガイは集団に合流した。本事例は、くくり罠による負傷は何年も経ったあとで致命的な事故に結びつきうることを示している。


野生ボノボにおける病死した赤ん坊に対する母親の反応ー見つめ、毛繕うも運ばず
(by 石塚真太郎) オリジナルの英文記事へ

 2016 年1 月13-14 日の二日間、コンゴ民主共和国・ワンバで一組の野生ボノボの母子の観察を行った。母子はともに病気であり、13 日13 時45 分に赤ん坊の死亡が確認された。母親は赤ん坊の落下直後に死体のもとへ訪れ、約15 分間見つめるも、そのまま樹冠へ戻るのみであった。翌14 日、母親は二度死体の下を訪れ、毛繕いをするも、死体を運ぶことはなかった。チンパンジーでは数ヶ月にも及ぶような長期間の場合も含め、多数の死児運搬事例が報告されているが、ボノボでは数日内に終わる事例の報告が数例あるのみである。本観察で母親が死児を積極的に運搬しなかったことも踏まえると、母親による死児運搬の起きやすさには、Pan 属二種間で差があるのかもしれない。




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