第17回 痙攣玉?―チャコブタケ

中村 美知夫


 このところ同定の怪しいキノコの紹介が続きましたが、このキノコはおそらくチャコブタケ(Daldinia concentrica)で間違いないでしょう。クロサイワイタケ科のキノコで、紫っぽい茶色〜黒褐色で不定形(写真1)。柔らかそうに見えますが、切断しようとすると結構堅い。パンガ(山刀)で割ったのが写真2ですが、断面が年輪状になっているのが分かります。



写真1 チャコブタケ。まさしく茶色い瘤のようである。




写真1 割ったところ。年輪状の層が見える。切り口は艶があって炭のようである。



 調べてみると、このキノコもコスモポリタン種(汎存種)で、世界各地で見られるようです。マハレでも倒木などにたくさん生えているのを見かけます(写真3)。色合いが似ているので、キクラゲ(「マハレのキノコ第5回」参照)だと思って近づくとこれだったということがよくあります。



写真3 このように倒木に群生しているのをよく見かける。



 日本語では、キノコ図鑑などでも通り一遍の説明しか書かれていませんでした。ただ、英語で調べると、「coal fungus(石炭きのこ)」とか、「King Alfred’s cake(アルフレッド大王のケーキ)」、「cramp ball(痙攣玉)」といった面白そうな異名が出てきます。
 「石炭きのこ」というのは、見た目から付けられたのでしょう。ただ、乾燥したものは実際火を着けるのに使えるようです。火打石や火打金で着火する火口(ほくち)としてとして、なんと4個3.99ポンド(約550円)で売っているサイトもありました。
  「アルフレッド大王のケーキ」というのもユニークな名前ですが、これもまた発想としては石炭と同じ。アルフレッド大王は9世紀のイングランドのウェセックス王で、イギリス人には馴染みの逸話があります。アルフレッドがデーン人(バイキング)から逃がれて民家に隠れていた際に、その家のおかみさんにケーキを焼く見張り役を頼まれました。ところが、アルフレッドはうっかりそのケーキを黒焦げにしてしまい、おかみさんに怒られてしまいます(箒で叩かれたらしい)。このキノコがその黒焦げのケーキのようだというわけです。
  さて、よく分からないのが「痙攣玉」。食べると痙攣を起こすのでしょうか?どうもそうではないようです。コリンズ英語辞書に「かつて痙攣を避けるために持ち運ばれた」と書かれているのを見つけました。詳細は分かりませんが、痙攣を抑える薬効があるわけではなく、おまじない的なものだったのでしょう。


(なかむら みちお・京都大学)


参考文献
Bushcraft UK Wilderness Living Skills online. http://bushcraftuk.school/shop/products/cramp-balls/, accessed on November 27, 2020.
Collins online. https://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/cramp-ball, accessed on November 27, 2020.
今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(編)2011. 『日本のきのこ―増補改訂版』山と渓谷社.
中村美知夫 2014. 「マハレのきのこ:第5回 「耳キノコ」―キクラゲ」『マハレ珍聞』24:6.
Wikipedia online. https://en.wikipedia.org/wiki/Daldinia_concentrica, accessed on November 27, 2020.



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