Pan Africa News 24(2)の記事から

ボノボの雌が昼間に出産して地上でごろ寝―その意味するところ
(by 柳興鎮) オリジナルの英文記事へ

 2015年4月5日、コンゴ民主共和国のワンバE1集団のボノボの雌オトミが昼間にデイベッドの上で出産したが、その後、地上に降りて横になった。4歳の娘のほか非血縁の母子が近くに来て新生児に関心を示したが、オトミは警戒することなく居眠りを始めた。出産直後の新生児には捕食動物に狙われたり、肉食目的の子殺しに遭ったりするリスクがあることから、母親が周囲や他個体に対して強い警戒を示してもおかしくない。オトミが予想に反して、出産直後に地上で居眠りをしたという事実は、彼女が他個体を脅威とみなしていなかったことを示唆する。ボノボ社会の寛容性がこれを可能にしたと考察した。


ロノア―ココロポリ・ボノボ保護区にボノボの行動調査拠点を創設
(by マーティン・サーベック、サリー・コックス、アルバート・L・ロカソーラ) オリジナルの英文記事へ

 2009年、ココロポリ・ボノボ保護区(コンゴ民主共和国)が開設された。「野生生活」とボノボ保全イニシアティブは、2005年からエカラカラ集団、2010年からは隣接するンココアロンゴ集団の追跡調査を開始し、すでにいくつかの成果が公表されている。2015年に至り、マックスプランク研究所の支援により、恒久的な調査拠点となるロノア基地が創設された。2つの調査集団の行動圏をカバーする50 km²の地域に調査道やトランセクトを張り巡らし、動植物相の基礎調査がおこなわれた。2016年から研究者が常駐して、ボノボの終日追跡観察を安定的におこなってお り、保全活動にも良い影響が期待される。


マハレのチンパンジーによるシロアリ釣り再考
(by アレジャンドラ・パスキュアル−ガリド) オリジナルの英文記事へ

 タンザニア、マハレB集団のチンパンジーによるシロアリ釣りは1975年に発見され、数本の論文にまとめられたが、その後の調査は途絶えていた。今回の調査により、この道具使用の伝統が少なくとも42年以上続いていることが明らかになった。道具の長さや太さについては先行研究に示されたデータとよく似ていたが、道具の材料として使用された植物の種類には顕著な違いが認められた。過去には樹皮、小枝、蔓、茎、葉などが広く使用されていたが、今回調査では樹皮のみが道具の材料となっていた。道具と(それを抽出した)植物本体を照合する今回調査の手法によるバイアスの影響も捨てきれないが、長い年月を経て樹皮を材料として選ぶ傾向が顕著になった可能性もある。環境変動が材料の入手可能性に影響したのかもしれないし、社会的伝達により選択的になった可能性もある。


老齢ボノボメスがアカオザルの死体を一か月以上持ち運んだ
(by 戸田和弥、徳山奈帆子、古市剛史) オリジナルの英文記事へ

 コンゴ民主共和国にある野生ボノボの調査地ワンバにて、ある老齢ボノボメスがアカオザルの死体を長期的に持ち運ぶ様子が観察された。慎重かつ保護的にその死体を扱う彼女の行動は、霊長類にみられる母親の死児運搬行動と類似しており、しばらくコドモのいなかった彼女は、代替的にサルの死体を運搬したのかもしれない。本事例は、サルの死体がボノボメスの“母性行動”の対象として疑似的に扱われる可能性を示唆するものである。




第30号目次に戻る