第22回 天然保存料にもなる!―ツノマタタケ

中村 美知夫


 雨季の森で、倒木から群生している小さな小さなオレンジ色のキノコに出くわしました。指の先よりも小さなキノコです。ツノマタタケ(Dacryopinax spathularia)だと思われます。
 ツノマタタケは、『日本のきのこ』という図鑑によれば「汎世界的」だそうですが、ヨーロッパには見られないとする文献もありました。日本では、ベンチやウッドデッキから出てきた、みたいなネット記事も多く、皆さんも身近なところで見たことがあるのかもしれません。



写真1 マハレで見つけたツノマタタケ。オレンジ色のへら状で、先端が少し分かれるものもある。



 和名のツノマタタケ(角又茸)は「ツノマタ」という海藻に由来するそうです。英名は「Fan-shaped jelly fungus(扇形のゼリーキノコ)」。見たまんまです。中国名は「桂花耳」。桂花はキンモクセイのこと。たしかにキンモクセイの花にも似ています。学名は、属名のDacryopinaxが「涙のように見える」、種小名のspathulariaは「小さな鋤」もしくは「小さな刃」という意味のようです。



写真2 手前が私の人差し指。5ミリくらいの小さなキノコである。



 調べるサイトによって「食用になる」と書かれているところと「食用にならない」と書かれているところがあります。毒はないようですが、小さくて集めるのが大変だし、そもそも食べようという気にならないのかもしれません。
 いろいろ調べていると、ツノマタタケの糖脂質から「ナガルド」という飲料用保存料が作られていることが分かりました。2022年の日経新聞にも「ナガルド」がEUで承認を取得したという記事が掲載されています。「天然成分由来」ということで消費者のイメージがよい(天然成分だから必ずしも安全というわけではありませんが…)ほか、一般的な合成保存料よりも添加量がかなり少なくて済むというメリットもあるようです。この小さなキノコにそんな力が秘められているというのも興味深いものです。
 世界的にも基準が厳しいEUで安全性が認められたことで、この保存料は今後さまざまな飲料で使われることになっていくのでしょうか。そうすると、私たちは知らず知らずのうちにツノマタタケを摂取することになります。


(なかむら みちお・京都大学)


参考文献・サイト
    EFSA Panel on Food Additives and Flavourings (FAF), et al. 2021. Safety evaluation of long‐chain glycolipids from Dacryopinax spathularia. EFSA Journal 19.6: e06609.


    今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(編)2011. 『日本のきのこ―増補改訂新版』山と渓谷社

    McNabb RF 1965. Taxonomic studies in the Dacrymycetaceae: III. Dacryopinax Martin. New Zealand Journal of Botany. 3 (1): 59–72.









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