第33回 大型のコウモリ

五百部 裕


 前回に続いて今回もコウモリ目(翼手目、Chiroptera)の仲間です。前回は中・小型の3種のコウモリを紹介しましたが、今回は大型のコウモリの紹介です。
 マハレには、大型のコウモリとしてオオコウモリ科(Pteropodidae)の2種が生息していると考えられています。1種はフランケオナシケンショウコウモリ(Epomops franqueti、英名:Singing fruits bat)、もう1種がケンショウコウモリ属の仲間(Epomophorus sp.、英名:Epauletted fruits bat)です。Kingdon他(2013)の「Mammals of Africa」によると、オオコウモリ科に属するコウモリは世界で180種以上が確認されており、アフリカ大陸やマダガスカル、インド、東南アジア、オーストラリア北部、そして南太平洋諸島といった、熱帯から亜熱帯の地域に広く生息しています。日本でも小笠原諸島に生息するオガサワラオオコウモリ(Pteropus pselaphon、英名:Bonin fruit bat)と、琉球列島に生息するクビワオオコウモリ(P. dasymallus、英名:Ryukyu fruit bat)の2種が知られています。この2種が属するオオコウモリ属(Pteropus)のコウモリは顔が一般的な哺乳類に似ているので、英語でflying fox(空飛ぶキツネ)と呼ばれることもあります。


写真1 ワールベルクケンショウコウモリCC BY 3.0 US, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16284392



 中・小型のコウモリの多くが反響定位(超音波を発して、その反響を利用して対象の距離や方向を推測すること)を行うために大きな耳を持っているのに対して、オオコウモリ科のコウモリは、おもに視覚に依存しているために目が大きく耳が相対的に小さくなっています。そして、中・小型のコウモリが昆虫を主食にしているのに対して、オオコウモリ科の仲間は果実を主食にしていす。
 フランケオナシケンショウコウモリは、コートジボワールからアンゴラ北部のギニア湾沿岸、そしてコンゴ盆地からウガンダまでの熱帯林やその周辺のサバンナといった環境に分布しています。コウモリでは大きさの指標の一つとして前腕長が用いられますが、このコウモリの前腕長は90 mm程度、頭胴長は140〜150mm程度のオオコウモリ科としては比較的小さなコウモリです。彼らは夜行性ですが、視覚に依存して生活しているので、月夜や日没・夜明け前の前後に活動することが多いようです。単独性で平均的な行動域は約1km四方です。繁殖期になるとオスが特定の場所に集まってメスの獲得を目指すレック(lek)と呼ばれる繁殖様式を持っています。1回の出産で1頭の赤ん坊を産み、妊娠期間は5〜6か月とされています。
 ケンショウコウモリの仲間はアフリカのみに生息し、「Mammals of Africa」では8種いるとされています。この本に記載された分布図を見ると、マハレに生息しているのはコケンショウコウモリ(Epomophorus labiatus、英名:Little epauletted fruits bat)あるいはワールベルクケンショウコウモリ(Epomophorus wahlbergi、英名:Wahlberg's epauletted fruits bat)あたりではないかと推測されます。ケンショウコウモリの仲間は、西はガンビアから東はインド洋沿岸までの疎開林やサバンナに分布しています。前腕長が70〜90mm程度でやはりオオコウモリ科としては比較的小型です。フランケオナシケンショウコウモリと同じく果実を主食とする単独性です。
 前回も書きましたが、カンシアナにある基地の食堂で、夜くつろいだりしていると、コウモリが飛び込んで来ることがあります。このコウモリがどの種か、できれば明らかにしたいものです。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学)



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