第41回 リンダ紹介者 中村 美知夫
リンダは私よりもちょっとだけ先輩のチンパンジーでした。私が最初にマハレを訪れた1994年より少し前にM集団に入っていたからです。そもそも、名前からして、研究室の先輩だったリンダ・ターナーさんから取られています。 写真1 25歳時(推定)のリンダ。まだ若々しい。 2000年代以降のリンダは、どの時期でも常に女の子を連れていました。最初の頃はリズ(1999年生)、その次にリリム(2007年生)、そして現在もM集団にいるレンゲ(2012年生)。リズはリリムが小さい頃によくその面倒を見ていました。そのリズが移出してリリムが大きくなると、今度はリリムが下のレンゲの面倒を見るようになりました。リンダは上のお姉ちゃんと小さい妹というトリオでいることが多かったわけです。本当はこの前後にオスの子を産んだこともあるのですが、オスの子は早く死ぬことがほとんどでした。 子供がメスばかりだったこととも関係するのかもしれませんが、リンダは大きなパーティから少し離れて動くことが多かった印象があります。4、5歳くらいのオスの子は、オトナオスについて行きたがるものですが(そして、結果としてその母親もオスたちについていくことになる)、リンダの場合そうしたお年頃のオスの子がいた時期がなかったのです。オスたちが騒がしくしているあたりからそう遠くないところでリンダ一家がのんびり過ごしている。そんなところを見ることも多かったように思います。 写真2 28歳時(推定)のリンダ(左端)。手前で仰向けになっている9歳のリズが1歳のリリムをあやしている。 2016年に私と西江仁徳さんは、マハレで金環食が見られた際の報告をしています(Pan Africa News 23巻参照)が、その時私が追跡していたのがリンダでした(その時に連れていた子は4歳のレンゲだけでしたが)。朝は、オスたちと同じパーティにいたのですが、早々にレンゲと2頭だけになってしまい、日食で辺りが薄暗くなった間は、ただただアリ釣りを続けていました。何かもう少し派手なことをしてくれたほうが研究者的には面白かったのですが、リンダらしいと言えばリンダらしいエピソードです。 残念ながらリンダは、2022年2月を最後に見られなくなりました。コロナ禍の影響でまだ調査を再開できていなかった時期で、現地の調査助手たちによる確認も散発的だったので、実際の死亡時期はもう少し後だったのかもしれません。その後調査は再開され、2023年8月には誰だかよく分からないオスの孤児が現れました。ヌルと名付けられたこの孤児は、いろいろと検討してみるとリンダの忘れ形見である可能性が出てきました。ヌルの話は、またいずれ誰かが詳しく報告してくれることでしょう。 写真3 38歳時(推定)のリンダ。頭髪が少し白くなっている。 (なかむら みちお・京都大学) 第41号目次に戻る | 次の記事へ |