Pan Africa News 14(1)の記事から

フォンゴリのチンパンジーによるシロアリ釣りの利き手に関する予備的報告
(by P.バートラニ、C.スコールズ、W.C.マックグルー、J.D.プルエ) オリジナルの英文記事へ

 多くの霊長類で、いくつかの「利き手」の形式が報告されているが、ほとんどの個体がどんな課題に対しても同じ側の手を用いるという意味での「真の利き手」は、ヒトに限られたものである。ゴンベではほとんどのチンパンジーが、シロアリ釣りについて個別に左か右の利き手を持っていることが分かっている。今回、セネガル南東にあるフォンゴリのチンパンジー5個体によるシロアリ釣りを調べたところ、個体ごとの利き手はみられたが、個体に共通の利き手はみられなかった。これは、調査地が数千キロメートルも離れたアフリカ大陸の反対側であるにも関わらず、ゴンベの結果と矛盾しない。今後データを増やしてこの結果を確かめる必要がある。


タンザニア、マハレ山塊国立公園のチンパンジーで発見された隣接する2集団間の採食習慣に関する文化的差異について
(by 坂巻哲也、中村美知夫、西田利貞) オリジナルの英文記事へ

 マハレで継続調査されているMグループの北側の、かつてKグループがいた地域に、1990年代後半からチンパンジーの存在が時々確認されてきた。私たちは、2005年にこのチンパンジーの人付けを開始し、Y(ミヤコ)グループと名づけた。現在人付けの過程にあり個体識別は進んでいないが、40-50個体程度の集団と推測している。2005年と2006年の2回の調査で、これまでマハレのチンパンジーで知られていない採食習慣が2つ確認された。いずれも間接証拠で採食技術は確認できていないが、文化的差異である可能性が高い。チンパンジーの行動的多様性は、隣接する集団間においても豊富に存在するのではないかと期待される。


マハレのチンパンジーに見られた皮膚糸状菌症
(by西田利貞、藤田志歩、松阪崇久、島田将喜、R.キトペニ) オリジナルの英文記事へ

 白い粉が鼻や上唇、額などおもに顔面にこびりついたように見える皮膚病がマハレのMグループのチンパンジーに流行した。戦前や終戦直後の日本ではよく子どもに見られ、「ハタケ」あるいは「シロナマズ」と呼ばれた皮膚糸状菌症とそっくりだった。2001年5月から10月に11頭、そして2002年の11月に1頭が感染した。子どもと限らず大人のオスにもメスにも見られた。雨季が近い9月にとくに集中して流行したので、真菌による病気だろう。チンパンジーは患部を触ったり、掻いたりしなかったので痒みや痛みはなかったようだ。


コンゴ民主共和国のボノボ保護施設「ローラ・ヤ・ボノボ」の現状
(by 平田聡、田代靖子) オリジナルの英文記事へ

 コンゴ民主共和国キンシャサ郊外に、ボノボ保護施設「ローラ・ヤ・ボノボ」がある。違法に捕獲されたボノボを保護するサンクチュアリであり、2007年2月時点で53個体が飼育されていた。保護されて間もない幼い個体は現地スタッフが母親代わりとなって面倒を見ており、その他の個体は広い放飼場において集団で飼育されている。我々の訪問時、5歳前後の個体の集団への合流、および2つの集団の合流作業が実施された。いずれの場合も、合流は平和的に進行し、メスどうしの性器こすりを含むボノボに特徴的な社会的交渉が頻繁に見られた。同施設は、ボノボの保護、研究、教育活動にとって重要な役割を担っている。


ウガンダ・カリンズ森林における罠除去プログラムについて:チンパンジーの保護のために
(by 橋本千絵、デビー=コックス、古市剛史) オリジナルの英文記事へ

 ウガンダでは、ダイカーなどの罠にチンパンジーがかかり重傷を負うことが問題となっている。これらの罠を除去するプログラムは、すでにキバレ森林などで行われているが、2005年よりカリンズ森林でも始められた。4人の調査員が2チームに分かれて森をパトロールし、見つけた罠を除去する。2005年からの1年間で1002個の罠と136個のとらばさみを発見し除去した。環境教育プログラムや調査などの雇用のある村に隣接する地域では罠の数は少なかったが、監視の目の届きにくい地域ではたくさんの罠が発見された。今後このプログラムを続けていくとともに、多くの罠が見つかる地域における保護プログラムが必要と考えられた。


ギニア・ディエケの森における新しいナッツ割り場所の調査概要
(by スザーナ・カルボルハ、クローディア・ソウザ、松沢哲郎) オリジナルの英文記事へ

 ボッソウから西に50kmに位置するギニア南東部のディエケの森のチンパンジーはナッツ割りをすることが知られている。2006年1月から4月の間、ディエケの森の中心部の実地踏査をおこない、河川付近のナッツ割り場所を調査した。その結果、これまでに報告されていなかった4箇所を含む計6箇所のナッツ割り場所が確認され、それぞれ多数の「台石」や「ハンマー」などのナッツ割りの道具がみつかった。また、チンパンジーの食痕、ベッド、足跡も複数個所で発見された。さらなる調査により、この地域のチンパンジー集団の個体数や遊動域が把握されるだろう。また、集団間のナッツ割りの技術的・類型的な変異についても調査を続けたい。


ボッソウでみられる野生チンパンジーのパパイヤ果実分配
(by 大橋岳) オリジナルの英文記事へ

 ギニア・ボッソウにおいて、野生チンパンジーがパパイヤの果実を分配する行動を9例観察した。遊動域は現地住民の居住域に隣接しており、パパイヤの木はその居住域に存在する。雄は躊躇なく村に入り果実を得ることができるため、雄のあいだでの分配は少ない。9例中8例で、オトナ雄から周期雌に 対して分配された。受け手の雌は発情中でないものもあった。しかし次の発情時に同じペアでのコンソートシップが確認できた。ボッソウでは繁殖可能な周期雌の数が少ない。交尾機会を得るために、雄にとってそれらの雌との関係を構築・維持することが他地域と比べて重要なのかもしれない。



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