これまで「マハレのサルたち」と題して、マハレに生息するサルの仲間を7回にわたり紹介してきました。しかしマハレにはサル以外にも数多くの動物が生息しています。そこでマハレのことをよりよく知ってもらうために、この新しいシリーズではサル以外の主だった動物たちを紹介していきたいと思います。 五百部 裕 第1回 ブルーダイカーカンシアナキャンプにやって来たブルーダイカー(撮影:中村美知夫)。
ブルーダイカー(学名は、Cephalophus monticola)は、マハレではよく知られた有蹄類(蹄を持った哺乳類)の一つです(写真)。そもそもダイカーとは、偶蹄目(ウシ目)ウシ亜目ウシ科ヤギ亜科ダイカー族に属する有蹄類の総称で、熱帯林を中心としてアフリカの広い範囲に分布しており、18種が知られています。このうちブルーダイカーは、雌雄とも角を持ち、おとなの体重が4〜10kg弱の小型のダイカーです。彼らは幅広い環境条件のもとに生息していますが、どちらかというと湿潤な環境を好むようです。マハレでも疎開林よりも森林での生息密度が2倍以上高いことが知られています。 ウシ亜目は別名反芻亜目とも呼ばれます。これは、彼らが3〜4部屋に分かれ、前方の部屋にバクテリアなどが共生している胃を持ち、通常の胃では消化しにくい、葉に含まれるセルロースなどの二次化合物を消化する能力を持つことに由来しています。ただしブルーダイカーは、こうした能力によって木の葉を食べると同時に、果実もよく食べることが知られています。おもしろいのは、ブルーダイカーはサルや鳥の後をついて歩き、彼らが樹上から落とした果実をよく地上で待ち受けて食べている点です。一種の「片利共生」の関係にあるといえるでしょう。 彼らは、1頭のおとな雄と1頭のおとな雌からなるペアを形成し、このペアが数haのなわばりをかまえていることが多いようです。こどもは2歳程度で性成熟を迎え、そのころになると親のなわばりを出て行きます。 かつてマハレに存在していたチンパンジーK集団では、ブルーダイカーはもっともよく狩猟が観察されていた種でした。しかし最近のチンパンジーM集団の観察では、ブルーダイカーが狩猟される頻度は少なくなっており、アカコロブスが圧倒的に多く狩猟されています。この違いは集団が異なることによるものなのか、あるいは別の要因によるものなのか今ひとつはっきりしていません。ただし、チンパンジーによる狩猟が少なくなってきたせいか、マハレのブルーダイカーの数は増加していると考えられています。 またマハレや同じタンザニアのゴンベでは、ブルーダイカーはチンパンジー狩猟の対象になっていますが、コートジボアールのタイ森林のチンパンジーは、ブルーダイカーを狩猟対象とは見ていないようです。というのも、タイではチンパンジーのすぐ側をブルーダイカーが通っても彼らは見向きもしないことが報告されているからです。このような地域による違いは、一種の「食文化」と考えられるかも知れません。
(いほべ ひろし 椙山女学園大学・人間関係) |
第9号目次に戻る | 次の記事へ |