親子対談−父から子へ調査助手の世代交代−藤本麻里子・花村俊吉 マハレでのチンパンジー調査が始まって、昨年40周年を迎えました。西田利貞先生、故上原重男先生、故川中健二先生、そしてその他の多くの方々のご尽力で今日まで40年以上もの調査が継続されています。もちろん現地で日本人の研究に協力してくれているトングウェ族の人々の支援なしに、このマハレでの調査は成り立ちません。2005年に初めてマハレでチンパンジーを観察する機会に恵まれた藤本と花村は、勤続40年で2005年をもって定年退職となったラシディ・ハワジ氏(60歳: 愛称キジャンガ)とその息子で新米調査助手のムワミ・ラシディ氏(20歳)の親子にインタビューをおこないました。 ●インタビュー登場者とその表記 H: 最近では毎日のように観光客がMグループのチンパンジーを見に、森にやってきます。それをどう思いますか? K: 外国からの観光客はタンザニアにお金を払う必要があります。タンザニアの人々は観光客の人がタンザニアにお金を払ってくれることを喜びます。 H: じゃあ、観光客がたくさん来てくれることに問題点があるとしたらそれは何ですか? K: あまりたくさんの観光客が一度にやってくると、我々の仕事、研究者の仕事ができなくなります。 H: 今、Mグループのチンパンジーに多くの観光客が集中していますが、他のチンパンジーの群れを人に慣れさせれば、この問題も解決すると考えて実行している研究者がいます。どう思いますか? K: その通りだと思います。観光客と研究者があまり出会わず、お互いチンパンジーの観察をするには他のグループを見られるようにすることが一つの方法です。 F: 昔、西田先生や伊谷純一郎先生がとても遠い国から初めてやってきて、チンパンジーを見たいと言われたとき、どう思いましたか? K: 私たちには全然理解できませんでした。最初彼らがやって来たとき、一体彼らはチンパンジーに近づいて何がしたいのだろうと思いました。 一同: 大爆笑。 K: ある日「あなたたちはチンパンジーを慣れさせて、捕まえて日本につれて帰りたいのか。」と尋ねました。 一同: 大爆笑。 K: だけど西田先生は答えました。「チンパンジーを捕まえる必要はない。私たちはチンパンジーをよく観察して、彼らがどんな生活をしているのか知りたいのだ。」と。そしてチンパンジーの研究というものがだんだんわかってきて、今では西田先生の仕事のことはよく理解しています。 F: ムワミ、あなたのお父さんはとても長い間この仕事を続けてきました。 M: そうです。 F: あなたもお父さんのように長期間にわたってこの仕事を続けていけますか? M: はい。僕も長期間仕事を続けていけます。僕はまだ若いですから。 F: 研究者の手伝いをする仕事は大変な仕事だと思いますか? M: チンパンジーがよく見られるときはそんなに大変ではありません。でも、チンパンジーはよく藪の中に入ってしまいます。藪の中にはヘビ、ミツバチ、サスライアリなど危険がたくさんあります。研究者はなかなか自分でそれに気がつきませんから、私たちが注意する必要があります。もし、ヘビに噛まれたり、ミツバチに刺されたり、ケガをしたりすれば仕事はとても大変になると思います。
写真1: 慣れないインタビューに緊張気味のキジャンガ(左)、ムワミ(右)親子 (ふじもと まりこ、滋賀県立大学人間文化学研究科)
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