マハレのサルたち

五百部 裕

第6回 アンゴラコロブス


アンゴラコロブス (<I>Colobus angolensis</I>)
図: アンゴラコロブス (Colobus angolensis
(J・キングドン 1997 “The Kingdon Field Guide to African Mammals”より)

 アンゴラコロブス(学名はColobus angolensis)は、黒と白のコントラストがはっきりした毛並みを持つ美しいサルです(図)。このサルは、ここまで紹介してきたサルたちとは少し違った特徴を持っています。それは長期にわたる継続調査が行われているチンパンジーM集団の遊動域の中には生息していないという点です。マハレ国立公園内では、M集団のチンパンジーが訪れることのない、標高1600m以上の急峻な山地林のみで観察されています。こうした分布域を持つせいか、マハレでの存在が正式に確認されたのは1976年のことです。またマハレは、最も近いこのサルの分布域から300km以上離れていることから、マハレに生息する個体群は新亜種ではないかとの考えもあります。実は、私も残念ながらこのサルをマハレで見たことはありません。

 名前から想像できるように、第1回で紹介したアカコロブスと同様、オナガザル科コロブス亜科に属するサルです。ですから、ウシなどの反すう動物と同じように胃が複数の部屋に分かれており、木の葉食いに特殊化しています。おとな雄の体重は10kg程度、おとな雌は7-8kg程度の中型のサルです。アンゴラからコンゴ民主共和国(旧ザイール共和国)、さらにはタンガニイカ湖の北岸〜東岸にかけての熱帯林や山地林を中心として分布しています。またタンザニア東部からケニア東南部にも生息している場所があります。ちなみにタンザニアのキリマンジャロ山周辺で見られる同じような毛色をしたコロブスは、アビシニアコロブス(学名はColobus guereza)と呼ばれる近縁な別種です。

 マハレ以外の場所でも、このサルの詳しい生態や社会はあまり調べられていません。マハレ以外の場所での調査によると、1頭のおとな雄と複数のおとな雌からなる単雄複雌群を形成することが多いようですが、複数の雄が一つの群れの中にいることも稀ではないようです。また群れの大きさは、数頭から10頭程度だと言われていますが、ときに群れがいくつか集まってできたと考えられる数十頭からなる大きな集団を作ることも観察されています。

 マハレの個体群の生態や社会については、限られた分布のため、まだまだわからないことばかりです。マハレの生態系をよりよく知るためにも、このサルの今後の研究の進展が望まれます。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学・人間関係)


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