チンパンジーのベッドでの調査

井上英治

マハレ珍聞第2号で、座馬耕一郎さんがチンパンジーのベッドでの昼寝について報告していますが、座馬さんから木登りを教えてもらった私もチンパンジーのベッドに登り、調査をしていました。調査の目的は、DNA試料としての体毛の採取です。Mグループのチンパンジーのように観察できる場合は、糞、尿などの試料をDNA分析のために採取していましたが、人に慣れていなく直接観察することが難しい他のグループからは、ベッドに残った毛を集めていました。

 私は、今でも、調査として最初に木登りしたベッドのことを覚えています。それまで、木登りの練習はしていましたが、調査で最初に私の前に現れたベッドは、20mはあろうかという高さにありました。そのときは、師匠の座馬さんに調査を手伝って頂いていました。座馬さんも隣の木に登り、たまにアドバイスをもらいながら、悪戦苦闘しながら登りました。風が吹くとベッドのある木が揺れ、その度に恐怖を感じました。そして、座馬さんがベッドで毛を採集し終わった頃に、私はようやくベッドにたどり着き、毛を採取しました。そのベッドには、ブルーダイカーと思われる動物の骨もありました。おそらく、チンパンジーがベッドの上で食べていたのでしょう。私には、それが頑張って登ってきた私への神様からのプレゼントのように感じました。

 その後、30以上のベッドに登り毛を集めましたが、動物の骨を見つけたのは、そのときだけでした。もちろん、今でも木登りをするのは恐い気持ちもありますが、またベッドの上で何かを見つけることができるのではという期待感もあります。それに何より、木の高いところやベッドの上に来ると、チンパンジーの気持ちに触れているような喜びを感じることができるのです。最初にもらった神様からのプレゼントが、私に木登りの調査の面白さを教えてくれたように思えるのです。



写真:木の上からみたチンパンジーのベッド

(いのうえ えいじ、京都大学大学院理学研究科)




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