――カンシアナ通信――
先代アルファ雄・ファナナの負傷

【マハレ発=カンシアナ通信】2005年11月22日現在、マハレMグループのアルファ雄(第一位雄)は23歳のアロフである。アロフがアルファ雄となったのは、2003年11月に先代アルファ雄のファナナが失踪したあとで、ようやくアルファ雄になって2年が経過した。その後のファナナの様子は、2004年夏号以降の本紙カンシアナ通信で報じられた通り、アルファ雄の地位から失脚し、Mグループの周辺に時折姿を確認されるのみであった。

 2005年はチンパンジーの食べ物が軒並み不作で、例年なら多くの個体が集まって移動するはずの10月、11月になってもMグループは小集団に分かれてそれぞれ食べ物を捜していた。そんな状況のせいか、ファナナの目撃頻度は高く、アロフはファナナの影におびえながら、なんとかアルファ即位2周年を迎えた。

 そんな2005年11月6日のことである。低順位のオトナ雄・カーター(20歳)、現在第4位のワカモノ雄・プリムス(14歳)、やっとワカモノ雄の仲間入りをしたクリスマス(10歳)の3頭がカンシアナ・キャンプ(以下、KC)にやってきた。KCのすぐそばの大木で、彼らはしばらくただひたすら食べごろの果物を食べていた。ところが、突然3頭に緊張が走った。これは上位雄でも現れたのだなと後ろを振り返ると、そこにファナナが立っていた。3頭は食べるのをやめ木から下りてきた。ファナナはゆっくりと3頭に近づき、私の前を横切っていった。と、そのときファナナの背中を見て私は思わず目を覆った。ファナナの背中は左側の皮膚が大きく剥がれ落ち、さらに右側にも深くえぐられた傷を負っていたのだった。

 まず、若きホープ・プリムスがファナナに向かって荒々しくディスプレイを始めた。それに対しファナナは悲鳴をあげ、劣位者が優位者に向かっておこなう「あいさつ」をプリムスにした。このプリムスとファナナの攻防が終わると、カーターも加わり、3頭で2時間余りの長い毛づくろいが交わされた。ファナナは時折プリムスに背中を向け、まるで傷の様子を見てもらっているかのようであった。やがて、他のチンパンジーの声が近くで聞こえだすと、カーターとクリスマスは声の方へと去っていった。しかしプリムスだけはファナナの元に残り、毛づくろいを続けた。ファナナは声の方を気にしながら、やがて声とは反対方向へと移動し始めた。プリムスはそんなファナナをずっと追いかけていった。

 その2日後、今度はファナナと第二位雄のボノボ(24歳)、ワカモノ雄のカドムス(14歳)がいっしょにいるのが目撃された。彼らもKCのすぐ側で、長らく毛づくろいを交わしていた。ところが、突然の大雨が彼らを襲った。彼らは大雨の中、KCの庭にあるレモンの木にやってきた。あまりの雨の激しさに我々もキャンプに避難した。まるで日本の台風を思わせる雨の中、傷口が乾かず化膿するのではないかとファナナの身を案ずるのみであった。数時間後、ようやく雨が上がるとすでにファナナの姿はなかった。怪我の原因は知る由もない。真実はファナナだけが知っている。


写真:ファナナ(左)のケガを覗き込むカーター(中央奥)とプリムス(右)

(特派員=藤本麻里子)




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