マハレのチンプ(ん?)紹介
第6回 ファトゥマ

紹介者 西田利貞

ファトゥマ

 30年もたつが、ファトゥマが最初に現れた日のことは、今も鮮やかに覚えている。かつては、カンシアナの水汲み場の東側に餌場があり、9月から1月くらいまではMグループが、その他の月はKグループが訪問するのが常だった。Kグループが餌場に来ていたある日、突然緊張が走り、チンパンジーたちは、食べるのをやめて立ち上がり一斉に谷のほうを見た。アルファ雄のカソンタは二足立ちし片手をカメマンフの背の上においた。しばらくして、小柄な若いメスが谷から現れ、皆にパントグラントして走り寄った。緊張が解け、雄たちは皆雌の性皮を調べ、採食に戻った。ファトゥマは1973年11月にはMグループに移転した。彼女は、その前年にKグループから移籍したほぼ同年齢のンディローと仲良くなり、いつも一緒に遊動し、性周期まで同調させていた。この二人はMグループの縄張りの北部を行動圏と決めたらしく、大群が南に行っても、キャンプ近くでお目にかかることがよくあった。初産の子は病死し、次の子は共食いの犠牲となった。三度目の正直であるペネロペーは、学生諸君からカソゲで最もかわいいチンパンジーという評判を得た。ペネロペーは嫁に出すことができたが、次の子供も死に、長男ピムが育ったときは私もほっとした。彼女の子はどれも額が大きかった。ファトゥマは狩がうまく、小さい子をお腹に抱いて木登りし、コロブスの赤ん坊を捕まえたことが何度かある。肉が大好きで、年をとってもオスに肉をおねだりするときは、赤ん坊のような声を出し、口移しでもらおうとする。オパール一族とコロブスをめぐって綱引きを演じ、ついに彼女と若者のピムが制したこともある。今では、人間と最も長いつき合いのある一人だが、用心深くつねに観察を怠らないところを見ると、まだ人間を完全に信用しているわけではなさそうだ。(おわり)

(にしだ としさだ、(財)日本モンキーセンター)



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