前第一位雄ファナナと現二位雄ボノボの争い

井上英治

マハレ珍聞の3号と4号で、紹介されていた前一位オスのファナナについての続報を紹介します。4号で紹介された事件の後、一人や数頭のオスのみで行動していました。第二位のボノボや第三位のピムに挨拶行動(挨拶行動は、順位の低い個体が行ないます)をするようになっていたので、もう第一位に復活するつもりはないのかと思われていました。今回は、そんな最中に起きた2005年2月のボノボとの事件について報告します。

 2月22日、ファナナはマスディ(第五位くらいの雄)と二人でいました。その翌日の朝もファナナはマスディといました。他の個体の気配に気がついたようで二人で声を出して移動し、10時27分に若い雄オリオンと若いメスといるボノボに出会いました。ボノボは出会ったときから、二人を恐がっているようでした。それからしばらく経って、ファナナが誇示行動を行なうとボノボは木の上へ逃げました。ファナナは何度も誇示行動を行ない、その度にボノボは恐がっているようでした。そういう状態が翌日まで続きましたが、23日の10時過ぎに再び事件が起きました。ファナナが誇示行動をしたとき、ボノボはその場から少し離れたマスディの所へ走っていき助けを求めたようで、ファナナの近くに二頭でやってきて誇示行動をしました。それを見たファナナは、それを避けるように木の上に登り、悲鳴を上げました。その後、ボノボがファナナの近くで誇示行動をするたびに、ファナナは恐がっていました。その日の夕方に観察を止めるまで、ファナナはボノボたちと一緒に行動していましたが、翌朝、ボノボたちの近くにファナナの姿はなく、それから一ヶ月以上、私たち観察者の前に姿を現すことはありませんでした。

 この一連の事件において、マスディが重要であったと思われます。マスディと一緒にいるファナナをボノボは恐がっていたのですが、マスディがボノボとともに誇示行動を行なうと今度はボノボが優勢になりました。チンパンジーの世界では、このように第三者の振る舞いによって、二者間の関係が変化するということがあるのです。ちなみに、その後ボノボはマスディと一緒に目撃されることが多くなりました。どうもボノボはマスディとできるだけ一緒にいようとしているようでした。


写真1: マスディ(右)と一緒にいるボノボ(左)

(いのうえ えいじ、京都大学大学院理学研究科)




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