みんな大きくなっていました伊藤詞子 七年ぶりの、本当に久方ぶりのマハレ訪問でした。チンパンジーたちのあまりの成長ぶりにびっくりしました。 写真1のチンパンジーはアビと娘のアクアです。以前のアビはまだまだ子供っぽさが抜けきらない個体だったのですが、すっかり大人っぽくなっていました。そもそも娘のアクアの方は存在すらしていなかったのですが…。それにしても、そっくりな親子です。 チンパンジーの成長というのは、もちろん身体が大きくなる、成熟した体格になる、といった、一目でわかる側面もありますが、身体だけではわからない行動面の成長もあります。たとえば、写真のアクアは、とにかく周囲で起こることならなんでも興味津々です。いろんなところに頭をつっこみ、時にはそのせいで叱られたりとばっちりで叩かれたり、などということもあります。あるいは、人間に興味津々といった風情で、近寄ってきたり、じっと覗き込んだりします。一方、すっかりオトナになったアビはというと、こちらの存在に興味を惹かれるということはほとんどありませんでした。 余談ですが、若いメスは臆病で人間に近寄らない、という人が研究者の中にもいます。しかし、こちらがむやみに近づいていったり、急に動いたりせずに、一定の距離を保ってゆっくりしていれば怖がったりしません。これは程度の差こそあれ他の年齢や性の個体についても言えます。近年、「保護」の観点から野生動物に一定の距離以上近づくことを禁止しようという動きが高まっています。これは、人間の病気が感染することを予防することを目的としていますが、チンパンジーをゆっくり見る、いろんな面白い行動を見る、という充実した観光ならびに研究のためにも、一定の距離を保つことは大変有効であるといえましょう。 アビに話を戻しましょう。アビはMグループ生まれなので、実は今回会えない可能性が高かった個体です。チンパンジー社会ではメスは成熟すると通常は他の集団に移籍します(俗に「嫁入り」とも言われます)。したがって、Mグループ生まれのメスたちは時が経てば、二度と会えなくなる場合が多く、今回もこのアビだけでなくアコやトッツィー(写真2)といったメスたちには会えなくても当然だったのです。しかし、なぜか3頭とも居残って子供まで産んでいたのです。一方、会えなかったメスたちもいます。もっと若い、ピピ、イヴァナといったメスたちには残念ながら会えませんでした。彼女たちが病気だったという報告もないので、おそらく他の集団に移籍したものと推測されます。なぜ、移籍したりしなかったりするメスがいるのかは、まだよくわかっていません。いったいどういうメカニズムでメスは他集団に移籍するのか。今後、移籍の年頃のメスたちを観察し、追跡することができれば、明らかになってくるのでしょう。
追伸: 写真1: アビ(奥)とアクア(手前)母子 (2005年11月撮影) 写真2: 右からアコ、アコの子、トッツィー (いとう のりこ、京都大学)
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