マハレ研究40周年 中村美知夫

1965年にマハレでのチンパンジー調査が開始されて、今年で40周年を迎えます。他の動物の研究を含めても、これほど長期に研究が継続されているところはほとんどありません。

 これもひとえに、西田利貞先生、川中健二先生、昨年お亡くなりになった上原重男先生、そしてその他大勢の研究者の方々がたゆまぬ努力で調査地を維持してこられたからであると思います。加えて、すでに二世代に渡って私たちの研究調査を手伝ってくれているトングェの人々の協力と、彼らとの友好的な関係が継続していなければ、このような長期研究が成し遂げられることはなかったでしょう。

 マハレMグループで現在最年長のオスはカルンデで、推定1963年生まれ。メス最年長のカリオペが推定1960年生まれです。いずれも調査開始より前に生まれていますから、40年というと長いようですが、まだ一個体の人生(チン生?)さえも完全にフォローできていないことになります。しかも、それぞれのチンパンジーが持つ強烈な個性、そしてそのような個性豊かな登場人物(チン物?)たちが描き出してきた集団の歴史とでも言うべき数々の社会変動。そういったことを考えると、まだまだ私たちはチンパンジーの表層しか知らないと言っても過言ではないでしょう。

 現在のアルファオスであるアロフは1982年生まれの23歳。私が最初にマハレを訪れた当時には12歳のワカモノで、私の追跡個体でした。やんちゃなワカモノが堂々としたアルファオスになったということは、それ自体たいへん感慨深いことです。いまだに乳首を触るという妙な癖が抜けきらない彼ですが(一生抜けない気がする)、これからマハレ50周年に向けて、いったいどのような歴史を描いていってくれるのでしょうか。


現在のアルファオス、アロフ

(なかむら みちお、 京都大学大学院理学研究科)




第5号目次に戻る次の記事へ