マハレのサルたち

五百部 裕

第3回 アオザル(ブルーモンキー)


アオザル

 アオザル、またはブルーモンキー(学名は、Cercopithecus mitis)と呼ばれるサルは、前回紹介したアカオザル同様、オナガザル科オナガザル亜科に属しています。このオナガザル亜科の中で、アフリカに生息する樹上性の強いサルたちをグエノンと呼ぶことがあります。ところがこのグエノンの分類はいまだはっきりと確定しておらず、研究者によって位置づけが異なる種類が数多く存在しているのです。アオザルもこの例外ではなく、どの範囲を指して「アオザル」と呼ぶかは議論が分かれているところです。IUCN(国際自然保護連合)が採用している分類にしたがうと、アオザルは、ギニア湾に面したアンゴラからコンゴ盆地、東アフリカのエチオピアやケニア、タンザニア、さらにはモザンビークや南アフリカといった南部アフリカに分布しています。ちなみにこの分類では、マハレのアオザルはCercopithecus mitis dogettiという亜種にされています。アオザルは、熱帯林や湿地林、ときには山地の竹林などに生息していますが、木の少ない乾燥した環境にはあまり適応していないようです。マハレのアオザルの個体密度は、アカオザルの10分の1程度と推定されていますが、これは乾燥した疎開林がマハレに多いためと考えられます。

 アオザルはグエノンの中では比較的大きなサルで、おとな雄の体重は8kg程度、おとな雌は4kg程度です。全身が青みがかった黒の毛で覆われており、これが名前の由来になっています(写真)。一般にグエノンでは派手な色彩を持った種類が多いのですが、アオザルは比較的地味なサルです。

 彼らはアカオザルと同様、1頭のおとな雄と複数のおとな雌からなる母系の単雄複雌群を形成します。群れの大きさは15頭程度で、一つの群れの遊動域の広さは20ha程度です。果実や種子、花、葉、昆虫などいろいろな種類のものを食べる雑食性のサルです。前述したようにマハレのアオザルの生息密度はたいへん低く、このサルを直接観察するのは容易ではありません。しかし森の中を歩いていると、時折「ボーン」という低く響く大きな音を聞くことがあります。実はこれはアオザルのおとな雄が発する、ラウド・コールと呼ばれる大きな声の一種で、警戒音や個体間距離の調節といった機能があると考えられています。

 アオザルもよく混群をつくるとされています。しかしマハレでは、アオザルの生息密度が低いためか、生息密度の高いアカコロブスやアカオザルを観察していても、彼らと混群をつくっている場面を観察することはほとんどありません。また他の調査地では、アカオザルとアオザルが交尾し、雑種をつくることが報告されています。しかしマハレでは、こうした雑種の報告は今のところありません。これもアオザルの生息密度が低いせいかも知れません。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学・人間関係)


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