マハレのチンプ(ん?)紹介
第4回 ントロギ

紹介者 保坂和彦

ントロギ

今年はントロギの10回忌(1995年11月15日逝去)。もはや伝説になった彼の雄姿は、直接観察した研究者はもちろん、いまM集団の中核を担う雄たちの脳裏にも焼きついていることでしょう。

 前号紹介のカルンデが悪党面なら、ントロギはさながら悪党を束ねる任侠ヤクザの親分の風貌。その強烈な存在感に私が魅了されたのは、1992年正月、彼が第2次政権についたときのことでした。じつは、彼はその11ヶ月前にカルンデが主導するクーデターに屈し、12年間続いたトップの座を追われ、村八分状態になっていました。カルンデは持ち前の政治力を発揮し、かろうじて暫定政権を維持しましたが、結局支えられず失脚し、若手成長株のンサバの攻撃に悩まされる状況に陥りました。ントロギはこの機を逃さず、またたくまに10年来の政敵カルンデとの和解、さらに同盟締結という変わり身を見せ、見事に政権復帰を果たしました。その後、3年あまり第2次政権を続けたのです。

 彼が復帰してしばらく続いた群れの異様な興奮は忘れられません。背後にカルンデを従え、風格を漂わせながら四つ足で立ちつくすントロギに、怒濤の勢いで押し寄せ挨拶しまくるチンプたち。帝王の復帰を待ちわびていたかのようでもあり、恐れおののくかのようでもありました。

 ントロギはまさに上に立つ者のパーソナリティーをもつ男。巨体にふさわしい落ち着きぶりとポーカーフェース。挨拶に来たチンプに跳びかかり押さえつけ大騒ぎを引き起こす容赦のなさ。せっせと毛づくろいをサービスするバランス感覚。苛酷さと柔軟さの取り合わせが絶妙でした。

 生命線のカルンデの扱いは特別でした。ほかのチンプのいない藪で逢い引きし、子ども同士のように遊んだり、3分近いキスを交わしたり、念入りにお互いを毛づくろいしたり…。そのカルンデは今なお健在です。きっと夢でときどきントロギと再会し、彼と過ごした日々に引き戻されていることでしょう。

(ほさか かずひこ、鎌倉女子大・児童学)



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