≪ニュース!≫ GRASP(グラースプ)とGRASP−Japanの結成について

西田利貞


 大型類人猿、つまりゴリラ、チンパンジー、ボノボ、オランウータンは、人類の最も近い親戚なので、ヒト科に分類されています。彼らは高い知能をもち、豊かな社会生活を送っています。強い好奇心を示し、仲間の気持ちに共感し、苦痛に同情します。母親を失った孤児を、一人前になるまで育てることもあります。連合関係を結ぶ一方、ライバルの連合形成を妨害します。道具の使用はもちろん、生薬を使って寄生虫を駆除している可能性もあります。地方ごとに異なる文化があります。このように、大型類人猿は、人間と他の生物が連続した存在であることを示し、人間が他の生物と共存することの重要性を教えてくれます。

 しかし、その大型類人猿が絶滅の危機に瀕しています。生息地の森林の農地への転換、木材の伐採、鉱物資源の採掘、食肉やペットとしての利用などにより、かれらの個体数は急激に減少し、今や自然状態下で生息する大型類人猿の各種は、それぞれ2万頭から11万頭と推定されているのです。生息地が分断されているため、類人猿の個体群が遺伝的に劣化する恐れもあります。

 この貴重な生物を守るため、国際連合環境計画UNEPは、大型類人猿保全計画(GRASP = Great Ape Survival Project)を2001年9月に立ち上げました。それは、世界各地の自然保護NGOの活動の統合を目指すとともに、人間と類人猿の共存をはかる、より実践的な新しい試みを含みます。たとえば、かれらを絶滅から救うには、既存の国際法、国内法の遵守を徹底するよう類人猿生息国に迫るだけでは十分ではありません。生息地に住む人々の社会・経済的問題を解決しないと、類人猿を絶滅から救うことはむずかしいのです。それゆえGRASPは、密猟や違法な森林伐採を防止する活動とあわせて、地域住民に対する環境教育や、類人猿の肉を販売しないでも生活できるような代替産業の開発にも取り組んでいます。GRASPの"パトロン"として、ラッセル・ミッターマイヤー博士、ジェーン・グドール博士、リチャード・リーキー博士と私が選ばれており、活発な活動を期待されています。

 GRASP の活動を支え、保護活動を主体的に担うために、日本の大型類人猿研究者が中心となって、GRASP-Japanを設立しました。理事は伊谷原一、加納隆至、黒田末寿、鈴木晃、竹ノ下祐二、中村美知夫、西田利貞、橋本千絵、古市剛史、松沢哲郎、山極寿一、山越言です。故 今西錦司博士に率いられたゴリラ調査隊がアフリカへ遠征して以来50年近く、日本の学者はアフリカとアジアの各地で大型類人猿を研究しています。現在その調査地は大型類人猿が生息する主要な国のほとんどをカバーしており、これほど長期にわたって広範な研究活動を展開している国はほかにはありません。またその活動内容も、類人猿の行動や生態の研究だけでなく、熱帯林の生態系の調査、森林と動物の保護活動、共存を支えるための地域環境教育と、多岐にわたっています。大型類人猿が絶滅の危機に瀕する今こそ、これまでに培ってきた日本人研究者の知識と経験を生かすべきだと考えます。

 私たちは、経団連や多くの有力な知人の協力を得て、2005年4月より募金活動をおこなおうとしています。GRASP-Japan には、日本人が中心となって活動するすべての調査地のメンバーが集っています。それぞれの地域の事情に根ざした効果的な保護活動を進めるため、調査地ごとに保護活動の計画を立て、全体の活動計画を練りあげます。集めた募金は、一部事務経費を除いたすべてが、それらの活動の支援に充てられます。集められた資金は、純粋に保護を目的とした活動に使われます。保護計画立案のための環境アセスメント、地域住民を対象とした環境教育、学校教育や医療サービスへの支援、森林資源の消費に替わる農林畜産業の育成など、その活動は多岐にわたります。現地を知りつくした研究者による実行計画をもつGRASP-Japanでは、集まった資金は確実に大型類人猿の保護活動につながります。具体的には、7つの地域で以下の事業を行います。下のBoxをご覧ください。詳しい活動内容につきましては、近いうちに立ち上げるホームページをご覧ください。皆様のご理解とご支援を、心よりお願い致します。  

(西田利貞)


[Box] GRASP−Japanの取り組む事業計画
  1. インドネシア:クタイ国立公園 − 新国立公園創設計画
  2. ギニア:ボッソウ・ニンバ地域 − 「緑の回廊」推進計画
  3. ガボン:ムカラバ国立公園 − エコミュージアム活動計画
  4. コンゴ(DRC):ルオー学術保護区 − ヒトとボノボの共存計画
  5. コンゴ(DRC):カフジビエガ国立公園 − 苗木・アートセンター計画
  6. ウガンダ:カリンズ森林保護区 − 環境教育・エコツーリズム計画
  7. タンザニア:マハレ・ウガラ地域 − ウガラ動物保護区設立計画



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