マハレのサルたち

五百部 裕

第2回 アカオザル


アカオザル  アカオザル(学名は、Cercopithecus ascanius)は、オナガザル科オナガザル亜科に属するサルです(写真)。コンゴ盆地を中心として分布しており、熱帯林や湿地林、疎開林など幅広い環境に適応しています。おとな雄の体重は4kg、おとな雌は3kg程度の小型のサルです。鼻の頭や頬の毛が白く、目の周りの青い部分と相まって愛嬌のある顔をしたサルです。また名前が示すように、赤茶色の尾をしています。カンシアナのキャンプにあるアブラヤシの実を食べに現われる個体もいたりして、マハレではごくふつうに見ることができるサルです。
 彼らはたいてい、1頭のおとな雄と複数のおとな雌からなる単雄複雌群を形成しています。群れの大きさは生息環境により異なりますが、20頭から30頭程度です。ちなみにマハレでは平均10数頭とされていますが、もう少し大きな群れを作っている可能性もあります。一つの群れの遊動域の広さは、マハレでは20〜30haと推定されています。オナガザル科のサルでは一般的な、雄が群れ間を移籍する母系の群れを作っています。雑食性で、果実や花、葉、キノコ、樹脂、昆虫などいろいろな種類のものを食べますが、おもな食物は果実と昆虫です。
 アカオザルをはじめとするCercopithecus属のサルたちは、複数の種が同じ場所を動き回る「混群」と呼ばれる集団をつくることが多いとされています。マハレでもこのサルは、アカコロブスやアオザルなどとよく混群をつくっています。
 前回紹介したアカコロブスが、マハレをはじめさまざまな調査地で、チンパンジーの主要な狩猟対象になっているのに対して、アカオザルがチンパンジーに食べられることはあまりないようです。長い研究の歴史を持つマハレでも、アカオザルが食べられた証拠は数例しかありません。一方マハレでは、アカオザルの生息密度はアカコロブスと同じ程度だと考えられており、数が少ないから食べられないというわけではないようです。同じような密度でいるのに、なぜアカコロブスの方がよく食べられるのか? チンパンジー狩猟に関連して、今後解明していかねばならない大きな問題の一つです。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学・人間関係)


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