マハレのチンプ(ん?)紹介
第3回 カルンデ

紹介者 西田利貞

カルンデ  いかにも悪党面である。体格も大きい。チンパンジーが大勢いても、異形の相の持ち主として、観光客の目にとまるらしく、よく被写体になる。個体識別は30年前で、まだ8歳くらいだった。離乳まもなく母親と死に別れたらしく、中年の雄カギミミのあとをいつも追従していた。彼の出世には邪魔があった。5歳くらいの年長者として、ントロギという不世出の強力な雄がいたのである。1981年頃、カルンデは頻繁なディスプレーで目立つようになった。しかし、ントロギの怒りを買い、たちまちひどい裂傷を唇に負い、耳を切られた。そして、1985年最後の単独挑戦に敗れたカルンデは、その後6年間というものナンバー・ツーを抜け出すことがなかった。カルンデは、ントロギ恐怖症に陥ったのである。
 1991年、ついにチャンスがやってきた。ンサバという10歳年下の雄と連合して、ントロギを追い出し、30歳にしてボスの地位についた。しかし、共通の敵がいなくなると、ンサバはまぎれもなきライバルだった。ントロギは13年間もトップの座を占めたが、カルンデ政権は半年という短命だった。彼には落ち着きがなく、いつもキョロキョロとあたりを見まわす。それに仲間を威圧するには、彼のディスプレーのテンポは速すぎた。なにより「はったり」というものがなく、不安を感じると誰彼となく抱きつき、それから飛び出すのである。トップの地位を熱望しつつ、最強者との妥協を繰り返したのが彼の一生だった。彼の明るい側面は、数頭の雌にひどくもてたことである。グェクロやピンキーは、カルンデが現在の第一位雄ファナナに挑戦されたとき、いつもカルンデを応援した。ンコンボはこの10年間、カルンデの追っかけをしている。発情とは無関係なのがおもしろい。

(にしだ としさだ、(財)日本モンキーセンター)



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