大型類人猿の病気の問題について

井上英治

 チンパンジーを含む大型類人猿は、生息地の減少や狩猟により、個体数が減っていることが指摘されてきました。病気で死んでいく個体が多いこともわかってきています。例えば、中央アフリカで流行したエボラ出血熱により、多くのゴリラ、チンパンジーが死んでいます。こういった問題の対策を練るために、ドイツのマックスプランク研究所で大型類人猿の病気に関する会議が行なわれました。
 人に近い類人猿は、人から病気が感染する可能性があります。とくに、マハレのように人が近づいて観察をできる地域では、そのことに注意しなければなりません。まず大切なのは、チンパンジーに近づきすぎないことです。咳や唾により、風邪が伝染する可能性があるからです。人ではそれほど心配されないような風邪でも、チンパンジーにとっては死に至る可能性もあります。実際、マハレでは、人から感染したかは不明ですが、インフルエンザ様の病気が流行り、多くの個体が死んでしまったことがあります。また、森の中で大小便をするのは極力避けなければなりません。それらには、多くの細菌やウイルスが含まれているので、そこからチンパンジーが病気に感染する可能性があるからです。同時に、チンパンジーとの距離を保つことは、人間のためにもなります。チンパンジーから人へと病気が感染することも考えられるからです。また、一度に多くの人が観察すると、彼らにストレスを与えることになり、それが病気を引き起こすかもしれません。
 病気への対策として、マハレ山塊国立公園では、いくつかの観察上の規則を設けています。それらの規則を守ることは、チンパンジーの健康のためにも人の健康のためにも重要です。とくに、人自身が健康管理を十分に行ない、体調の悪いときにはチンパンジーに近づかないということを守らなければなりません。
 また、マハレでは行なっていませんが、チンパンジーの糞や尿を使って健康状態を検査している調査地も紹介されました。今後、このような研究が必要とされます。そこで会議では、これから多くの研究者が協力して、大型類人猿の病気について取り組むためのネットワークが提案されました。世界中で類人猿を含む野生生物が人や家畜と接触する可能性の高い今、このような病気に対する取り組みが野生生物の保全のためには必要なのです。


(いのうえ えいじ、京都大・理)


(*尚、会議への参加は、JSPS-HOPEによる助成を受けました)



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