撮影隊の密かな悦び

松谷光絵

 TBS系列『どうぶつ奇想天外!』などテレビ番組の取材のため、マハレを訪れるようになって10年が経ちました。毎年一度、撮影期間は2週間から8週間とまちまちですが、少なくとも延べ7、8ヶ月はチンパンジーの姿を追ったことになります。
 前号で西江仁徳さんが「調査の一日」を紹介していますが、撮影隊の場合は大分様子が異なります。前日のベッドの位置を手がかりに、声や痕跡を辿ってチンパンジーの現在地を知るのは同じですが、よほどキャンプ地の近くでない限り、この任は先遣隊の2名に任せています。他のスタッフは適当な場所に待機し、無線連絡を待ちます。チンパンジーが見つかっても、すぐに現場直行とはなりません。移動中なら次の目的地を見極めるのが先決、その後の追跡が可能か否かも問題です。カメラの重量が10キロ余り。三脚や予備のバッテリー、テープなど他の荷物も優に20キロを超えます。撮影隊は非常に機動性が悪く、研究者の方々のように藪をかき分け、崖をよじ登りしてチンパンジーの後をついて行くことができないのです。またチンパンジーたちが一箇所に落ち着いている時でも、待機を続けることが少なくありません。見たいものを選択的に捉える人間の眼と違って、カメラはそこにあるものすべてを写してしまうので、草や葉が生い茂った場所では仕事にならないのです。観察はできても撮影はできない。そんな状況の方が多いぐらいです。
 いいシーンを撮るためには、次の行動を予測することが不可欠です。撮影に適した開けた場所に先回りしていれば、それだけ撮影のチャンスが広がります。それに何と言ってもテレビは顔が命。お尻や背中ばかりでは映像として弱いので、正面から顔を捉えるためにも待ち受けることが重要です。また撮影中も、たとえば後ろからやって来るチンパンジーがいると、目の前にいるチンパンジーがどんな行動をとるか予測して、カメラ・ポジションを決めて行きます。しかし、残念ながら予想は外れて当たり前。チンパンジーたちは一頭一頭性格が違い、その場の状況によって態度も行動も臨機応変に変えるので、なかなかこちらが思い描いたシナリオ通りには動いてくれません。だからこそ面白く、読みが的中した時の悦びは倍増すると言えます。紙面がつきてしまったので、具体的なエピソードをご紹介することはできませんが、それはまた次の機会に。


写真1:カメラマンの高野 稔弘さん

(まつや みつえ、TBS「どうぶつ奇想天外!」撮影班)




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