マハレからのたより

チンパンジー調査の一日

西江仁徳


 昨年に引き続き、マハレにやってきました。今回は到着したばかりなので、まず調査の一日の様子をご紹介します。
 調査は、毎朝まずチンパンジーを探すことから始まります。できるだけ早く観察を始めるため、毎朝6時半頃には起床します。マハレは東側に山塊が連なっているので日の出は比較的遅く、朝起きた頃にはまだ薄暗いのが普通です。
 朝食をとって、7時半に現地トングェ族のアシスタントと一緒に森へ出発。熱帯とはいえ朝の空気はひんやり冷たく、調査に出かける緊張感とあいまって、すがすがしさの中にもピンとはりつめた雰囲気を感じながら、明るくなりつつある森の中を歩き始めます。
 前日の夕方、最後にチンパンジーを見た辺りに向かって森の中を歩いていくのですが、朝チンパンジーを見つけるもっとも大事な手がかりはチンパンジーの≪声≫です。チンパンジーは朝起きたあと大騒ぎをすることが多く、その声はかなり遠くからでも聞こえます。まずは全身を「耳」にして、遠くのかすかな声も聞き漏らさないように注意しながらチンパンジーの居場所を突きとめます。近くまでくると、新しい食痕や糞、木の揺れる音や足音、地面の足跡やにおいなども手がかりにしながら、チンパンジーを見つけます。
 チンパンジーを見つけたら、追跡と観察を始めます。このあたりからは調査の内容によって方法はそれぞれ違いますが、私の場合は対象の個体を一日中追跡するという方法になります。ひどい藪の中や崖のような坂道でもチンパンジーは構わず歩いていってしまうので、見失わないように追跡するのはそれだけでなかなか大変です。さらに自分の必要なデータを観察しながら記録していくので、一日の終わりには歩きまわった足だけでなく、目や耳や頭の中までもクタクタに疲れ果ててしまいます。
 夕方まで森の中を歩きまわり、汗まみれ泥まみれになってキャンプに戻ってきたらお風呂と夕食です。お風呂はバケツ一杯分のお湯を沸かし、水と混ぜながら浴びます。キャンプに風呂桶はありませんが、歩いて10分ほどのところにはタンガニイカ湖という巨大な「水たまり」があるので、ここで沐浴することも可能です。
 夕食は、栄養補給の上で料理の楽しみとしても、とても大切なひとときです。毎日森の中を歩きまわるエネルギーを蓄えるために、食事の量は日本にいるときより大幅に増えます。チンパンジーの観察を終えてキャンプに戻ってくる道中、夕食のメニューを考えながら帰ってくるのも楽しいものです。料理ができたら、その日見たチンパンジーのゴシップを話しながらの夕食。耳をすませばヨダガの鳴き声がきこえてきます。マングースやヤブイノシシなどの珍客がキャンプにやってくることもあります。
 朝が早いので、毎日9時頃には就寝。日が暮れて暗くなり、ご飯を食べておなかもいっぱいになると、一日の疲れもあって自然と眠くなってきます。夜更かしすることもなく、健康的な毎日。不規則な日本での生活を反省することしきりです。

(にしえ ひとなる・京都大学・理)



第2号目次に戻る次の記事へ