年末年始のご挨拶?

清野未恵子

 

樹上でイサカマという果実を頬張るユリ(左)と、それを物欲しげに見つめている

ワカオスのカドムス(中央)とワカメスのターニー(右)(撮影: 花村 俊吉)



 マハレ珍聞第6号で、Mグループに入ってきた若いメスが"ユリ"と名付けられたことが紹介されました。ユリに会うのを楽しみに私がマハレに入ったのが2006年6月、その後Mグループが集合する時期になっても、ユリは姿を現しません。トラッカーや私より前に滞在していた研究者の話では2005年12月以降、ユリの姿をみていないとのことです。私たちはMグループの出席簿からユリの欄を削除するべきかどうかを考え始めていました。

 そのようななか、2006年12月22日、久しぶりにMグループのメンバーとともに遊動しているユリの姿をみかけました。とても元気そうで安心していたのですが、2006年1月1日を最後に、私がマハレを発つ2007年5月20日まで再びユリの姿を見ることはありませんでした。12月22日〜1月1日のころのマハレは、野生のポインセチアが赤く色づき、ラジオからはクリスマスの曲が流れ、にわかにクリスマスムードが漂っていました。そのような雰囲気の中でのユリの登場に、私は「年越しに郷里に帰ってくる年頃の娘のようだな」と思いました。ユリは、噂で聞いていた通り、綺麗な顔立ちでとても愛らしいメスでした。そういった雰囲気が漂っていたのでなおさら、"年は二八の花盛り"というイメージが私の頭の中をよぎったのでしょう。「時間」や「季節」といった感覚がチンパンジーと人で同じであるかどうかはわかりませんが、私と一緒にチンパンジーを追いかけていたトラッカーたちも「ユリはクリスマスだからMグループに帰ってきたんだ」と言っていました。

 チンパンジーにとって、グループを形成するメンバーの関係は様々です。そういった関係を維持するためには、頻繁に出会うことも大切なのかもしれませんが、いつもはほとんど一緒にいなくても、ある特別な集まりに参加することで、親しい間柄を保っていることもあるのかもしれません。普段はほかのグループの仲間たちとほかの場所で青春を謳歌し、あるときだけ馴染みの場所に帰ってくる、そのようにして若い時代を過ごすチンパンジーの遊動のあり方を垣間みたような気がしました。



(きよの みえこ 京都大学)




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