マハレのチンパンジーの「アリ釣り」の腕前

西江仁徳


 私は2002年の8月から11月まで、初めてマハレでの調査をしてきました。研究テーマは「野生チンパンジーのオオアリ釣り行動の獲得過程」です。マハレのチンパンジーは、木の幹の中に巣を作るオオアリを、蔓などの植物を加工した道具を巣穴に差し込んで「釣り」をして食べることが知られています。この行動を、新しく生まれた子供や、新しく群れに移入してきた雌が、どのようにして獲得していくのかを調べています。 オオアリ釣り行動の獲得には、(1)「オオアリは食べ物である」ことを認識する、(2)オオアリの巣のある場所を覚える、(3)「釣り」の行動パターンを身につける、(4)道具の種類や加工のしかたを身につける、(5)より「上手な釣り」ができるような釣り場所・道具・行動パターンを身につける、といったいくつかの要素が考えられます。それぞれの要素について考えるために、2002年の調査では、主にオトナのチンパンジーのオオアリ釣り行動を詳しく観察して、群れの「標準的な」オオアリ釣りについて理解することを目指しました。
 その結果、(1)チンパンジーは最長約2時間 50分もの間オオアリ釣りをし続けることがあり、その間約3000匹ものアリを食べていること(平均約30分間で約300〜700匹のアリを消費)、(2)釣り場所となる木は4ヶ月間で33カ所見つかり、樹種はある程度偏っていること、(3)M集団のチンパンジーは3歳以上の個体はほとんどみんなオオアリ釣りをすること、(4)オオアリがよく釣れる場所はある程度決まっていて、また個体によってもある程度「釣り」のうまい・へたがあること、などがわかりました。このような結果をもとに、今年の10月から約一年間マハレに行って再び調査を続ける予定です。

(にしえ ひとなる・京都大学・理)



創刊号目次に戻る次の記事へ