アフリカの東と西で
―チンパンジーの雌の生活と繁殖―

藤田志歩


 アフリカ大陸は日本の約80倍の広さがあります。そこに、赤道を挟むようにしてチンパンジーが生息しています。チンパンジーは三亜種に分類され、ヒガシチンパンジー(Pan troglodytes schweinfurthii)、チンパンジー(P. t. troglodytes)およびニシチンパンジー(P. t. verus)が生息地を分けて暮らしています。
 生息地の環境によって、チンパンジーの生活スタイルは異なります。例えば、東アフリカ・タンザニアのマハレのチンパンジーは狩猟をして肉をよくたべますが、西アフリカ・ギニアのボッソウという地域のチンパンジーは、獲物となる動物が少なく、肉食の習慣があまりないため、動物を捕まえても食べずに捨てることさえあります。
 全ての生物にとってそうですが、生活の中で繁殖は大切な要素です。繁殖においても、マハレとボッソウでは違いのあることがわかりました。マハレのチンパンジーはボッソウのチンパンジーと比べて、ゆっくりと繁殖します。つまり、雌の初産年齢が遅く、出産間隔が長いのです。最近では、尿や糞から生殖関連ホルモンのレベルを調べて、チンパンジーの生理学的状態を知ることができるようになりました。そこでホルモンレベルを比べてみると、マハレの雌はボッソウと比べてホルモンレベルが低いことがわかりました。これはおそらくチンパンジーの栄養状態に差があるからでしょう。
 ヒトでも同様に、生活スタイルによってホルモンレベルに個人差があります。チンパンジーもヒトも環境にあった生活スタイルをもち、繁殖の仕方もそれぞれ違うのだと考えられます。このことは、生物がそれぞれの環境で生き残っていくためには重要なことです。環境にあった繁殖の仕方とはどのようなものなのか、進化の歴史の中でどのように形成されたのか、また、変動する環境の中で状況に応じてどれくらいそれを変えることができるのか、これらを調べるために、これからもアフリカの東と西でチンパンジーの雌の生活をのぞいてみようと思います。

(ふじた しほ・岐阜大学・連合獣医)

写真:雄から毛づくろいされて一休みするチンパンジーの雌(ミヤ)。膝には生後半年の子どもを乗せている。後ろでは彼女の上の子どもが同年代の子どもと遊んでいる。マハレでは多くの場合5年半から6年の間隔で出産を繰り返す。



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