第21回 木から生える白いヒゲ―ヤマブシタケの仲間?

中村 美知夫


 このキノコを見たのは2017年11月。マハレで雨が激しくなる頃です。
 木の幹から、白い針状の突起が多数下向きに伸び、まるでサンタ・クロースの白いヒゲのようです。これだけ分かりやすい外見なので、すぐに同定できるかと思ったのですが、現在までのところ、完全にこの種だと思えるようなキノコは見つかっていません。



写真1 クローズアップ。ヤマブシタケよりも針がだいぶ太い。



 日本のキノコ図鑑を見る限りでは、ヤマブシタケ(Hericium erinaceus)に似ている気がします。ただ、同種というほどには似ていない。ヤマブシタケも私は実物を見たことがないので、断言はできないのですが、図鑑やネットなどでいくつかの写真を見る限りでは、ヤマブシタケのほうが針状の突起がより細く、多数あるように見えます。同じ属の別種なのかもしれません(まったく別属の可能性もあります。いずれも自信はありませんが)。少なくとも日本にはないキノコのようです。



写真2 少し離れたところから。何か所も生えている。



 英語版Wikipediaの説明によると、ヤマブシタケの属するサンゴハリタケ属(genus Hericium)は、7種あり、「北アメリカ、ヨーロッパ、アジアを含む北半球に広く見られる」と書かれています。タンザニアは南半球なので、この説明とは合致しません。ただ、ごく最近、南アフリカ(タンザニアよりもさらに南にある)でこの属の新種(H. ophelieae)が記載されていますから、南半球にサンゴハリタケ属が分布しないということではないようです。まだまだアフリカでは十分な記載がなされていないということかもしれません。ちなみに、この南アの新種の写真もネット上で見ることができますが、マハレのものは、それとも異なるように見えます(ひょっとしてこれも新種?)。
 ちなみにヤマブシタケという和名は、山伏の衣装についている房状のボンボン(「梵天」というらしい)に似ていることから付けられたようです。英語では「ライオンのたてがみ(lion’s mane mushroom)」とか「あごヒゲ状の歯(bearded tooth mushroom)」などと呼ばれています。属名のHericiumはハリネズミという意味。
 サンゴハリタケ属全体の説明に「食べられるキノコ」と書かれていて、ヤマブシタケは各国で食べられている人気の食材だとのこと。調べてみたら、CMの「きのこ・の・こーのこ・げんきのこ♪」(『キノコの唄』というらしい)でお馴染みのホクトが栽培もしているようです。


(なかむら みちお・京都大学)


参考文献

    今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(編)2011. 『日本のきのこ―増補改訂新版』山と渓谷社.

    Van der Merwe B, Herrmann P, Jacobs K 2023. Hericium ophelieae sp. nov., a novel species of Hericium (Basidiomycota: Russulales, Hericiaceae) from the Southern Afrotemperate forests of South Africa. Mycology. 14(2): 133?141.







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