第32回 中・小型のコウモリ

五百部 裕


 今回から2回に分けてコウモリを紹介します。コウモリ目(翼手目、Chiroptera)の仲間は、ご存じのように空を飛ぶことができる哺乳類で、南極を除く全大陸や海洋島に生息しています。このように哺乳類の中では最大の分布域を持っており、これは彼らが飛翔能力を持つためと考えられています。そしてアフリカ大陸には9科のコウモリが分布しており、このうち3科がマハレに生息しています。コウモリの仲間は、大型で果実などを主食にしているグループと中・小型で昆虫などを主食にしているグループに大別されますが、今回は中・小型のコウモリの紹介です。「A Quarter Century of Research in the Mahale Mountains: An overview」(Nishida, 1990)のTable 1.1では、Chiropteraの説明に「bats not yet identified」と記載されていますが、その後の研究で少なくとも5種のコウモリがマハレに生息していると考えられています。このうち3種が中・小型のコウモリです。これらは、サシオコウモリ科(Emballonuridae)のエジプトツームコウモリ(Taphozous perforatus、英名:Egyptian Tomb bat)と、ヒナコウモリ科(Vespertilionidae)のハウスコウモリ(Scotoecus albofuscus、英名:Light-winged lesser house bat)、およびアブラコウモリ(Pipistrellus sp.、英名:Pipistrelle bat)です。なお、アブラコウモリの仲間は日本にも生息しています。



写真1 エジプトツームコウモリ CC BY-NC4.0Deed|Attribution-NonCommercial 4.0 International Photo by Paul Webala



 ツームコウモリ(属名:Taphozous)の仲間が「ツーム(墓)」と呼ばれるのは、エジプトなどの墓や寺院で最初に発見されたことに由来しています。エジプトツームコウモリは、ナイル川流域やケニア海岸部、そして西アフリカなどに点在する分布域を持っています。コウモリでは大きさの指標の一つとして前腕長が用いられますが、エジプトツームコウモリの前腕長は60 mmあまりで中型のコウモリです。彼らは夜行性で、おもに空中で昆虫を捕まえて生活していると考えられていますが、反響定位(超音波を発して、その反響を利用して対象の距離や方向を推測すること)を行っているかどうかはわかっていません。墓などの「寝床」では、200頭以上の集団をつくることもあります。ハウスコウモリは、東アフリカから西アフリカまで幅広い地域で記録されていますが、報告数が少なく生態や社会は不明なことが多いコウモリです。前腕長が30 mm程度の小型のコウモリで、胃の内容物の分析から空中で昆虫を捕まえていると推測されています。アブラコウモリの仲間は、前腕長が30〜40 mmほどの小型のコウモリです。他の小型のコウモリ同様、夜行性で昆虫を主食としていると考えられています。
 カンシアナにある基地の食堂は、壁の少ないオープンスペースになっています。そのため、夜、食事をしたりくつろいだりしていると、時々、コウモリが飛び込んで来ることがあります。このコウモリは今回紹介したどれかだと考えられますが、捕まえないかぎり種を特定することは難しく、残念ながらどの種かわかりません。また、Kingdon 他(2013)の「Mammals of Africa」によると、マハレにはこの3種以外にも中・小型のコウモリが生息している可能性があります。以前紹介したネズミの仲間同様、マハレの生態系の把握のためにはコウモリの研究も進めていく必要があるでしょう。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学)



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