第16回 世界の車窓から―研究者 in タンザニア編―

清家 多慧

 

 アフリカの鉄道と聞くと、皆さんどんなことを想像するでしょうか?すし詰めの乗客?サバンナに延びる1本の線路?意外と近代的で新幹線みたいな車体だったりして…?今回の珍道中では、今年の3月、マハレから日本への帰り道に私が初めてタンザニアの鉄道に乗ったお話をしようと思います。
 タンザニアには2つの鉄道があります。1つはマハレから一番近い街キゴマとダルエスサラームをつなぐ鉄道、もう1つが今回ご紹介するタンザン鉄道(TAZARA)です(図1)。TAZARAはザンビアとタンザニアを2泊3日で結ぶ国際列車で、タンザニア側の終点は同じくダルエスサラームです。TAZARAは週に2本しかないので、国際線の出発日から逆算してどの列車に乗るか、綿密に計画を立てて行く必要がありました。マハレを出てキゴマに着いた私は、TAZARAに乗るべく、まずムベヤという街を目指します。ムベヤまでのバス乗り継ぎ旅も面白かったのですが、それはまたの機会に…。



図1 私が家族に送った帰国経路図。地図下方、ムベヤとダルエスサラームをつなぐ点線がTAZARA乗車区間。



 3月10日。夕方バスでムベヤに到着し、まずは今夜の宿探しから。TAZARAは明日の15時発の予定です。バスターミナルでバジャジ(原付三輪タクシー)に乗って運転手の兄ちゃんおすすめの駅前のホテルへ連れて行ってもらいました。「明日TAZARAに乗るんだ」と言うと、わざわざ駅の前を通って「駅はここだからな!」と親切に駅を見せてくれました。宿探し、無事クリア!今日はもうホテルで晩御飯を食べてゆっくり休みます。
 3月11日。この日の最初にして最大のミッションはTAZARAのチケットを手に入れること。なんとしても4人部屋ベッド付きの一等席を取らねばなりません。予定では1泊2日の鉄道旅、ベッドなしはツラいです。もし売り切れてたらどうしよう…。ホテルの人曰く、駅の窓口は9時くらいから開くとのことなので、ホテルで朝食にチャパティとバナナを食べてから9時に駅へ。駅舎内はガラガラですが、窓口には10人ほど人が。何やら前に並んでいる白人二人がもめています。もしや一等席売り切れか…?
 自分の番になり、恐る恐る「一等席のチケットください…」と言うと、「1人?」とすぐにチケットを売ってくれました(写真1)。よかった!しかし、無事チケットをゲットして安堵したのもつかの間、衝撃の一言が。



写真1 TAZARAのチケット



 駅員「鉄道が11時に到着予定だから、9時には駅に来てね。」

 ん…?11時…?今は朝の9時、時刻表では15時発の予定です。出発が早まることはあり得ません。ということは…。

 私「え…11時…?夜の…?」
 駅員「うん。夜の11時。だから夜の9時に駅ね。」

 TAZARAはよく遅れるとは聞いていましたが、ここまでとは。まさかの8時間遅れです。しかも、現時点で23時到着予定ということは、実際の到着はもっと遅れることでしょう。でもまあ、どうしようもありません。絶対21時に駅に行く必要ない…。と思いながらも、「わかった…」と返事をして駅を後にしました。
 半日ムベヤ散策の予定が、丸一日暇になってしまいました。ホテルを1泊追加して夜までいさせてもらえるよう頼み、市場へ買い物に行ったり、ホテルでだらだらしたり。ホテルにいても暇なので、結局20時にホテルを出ました。
 真っ暗な中、駅へ向かうと、朝とはうって変わって列車待ちの人と乗客に食べ物や土産を売りに来ている人で駅の入り口はごった返しています。勝手がわからないのでひとまず駅舎の中に入ると、おじさんに切符を確認されて「この列に並べ」と指示されました。駅員さんでしょうか。よく見えません。駅舎の中は明かりがなく、真っ暗です。外から月明かりのお陰で、地面には荷物が列に並べられているのがわかります。よく見ると、荷物だと思ったいくつかはカンガやキテンゲ(タンザニアの布)をかぶって地面で寝ている人間です。私も指示された列の最後尾にスーツケースとザックを置いてそれを背もたれに座り、キテンゲをかぶって列車を待ちます(写真2)。



写真2 駅舎内の様子(スマホのフラッシュ撮影にて)



 現在時刻、列車既に到着予定の23時。まだ列車は来ません。さて、この真っ暗な駅舎で私はいつまで待つことになるのでしょうか…。(つづく)

(せいけ たえ・京都大学)



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