第31回  ネズミ科の仲間

五百部 裕


 今回はネズミ科(Muridae)の仲間です。ここまで数回にわたり、ネズミ目(齧歯目、Rodentia)に属する動物を紹介してきましたが、その中では、読者の皆さんにもっともなじみのあるグループかもしれません。日本の家屋に浸入してくることもあるドブネズミ(Rattus norvegicus)やハツカネズミ(Mus musculus)もネズミ科に属しています。「A Quarter Century of Research in the Mahale Mountains: An overview」(Nishida, 1990)のTable 1.1には2種しか記載がありませんが、「Mahale Chimpanzees: 50 Years of Research」の「Mammalian fauna」に記載されているように、その後の研究でマハレには少なくとも9種いるとされています。このうち種名まではっきりしているのが、いずれもネズミ亜科に属するケニアクサマウス(Lemniscomys rosalia、英名:Single-striped grass mouse)、ホシフクサマウス(L. striatus、英名:Striated grass mouse)、カオアカネズミ(Oenomys hypoxantus、英名:Common rufous-nosed rat)の3種です。あとは、種名までは判別できていない種が最低6種いるとされており、それらは、コンゴキノボリネズミ亜科に属するブラシネズミ属の1種(Lophuromys sp.、英名:Brush-furred rat)、ネズミ亜科に属するものとして、モリマウス属の1種(Grammomys sp.、英名:Thicket rat)、モリヤワゲネズミ属の1種(Hylomyscus sp.、英名:Wood mouse)、ハツカネズミ属の1種(Mus sp.、英名:Mouse)、ヤワゲネズミ属の1種(Praomys sp.、英名:Soft-furred rat)の合計4種、そして、カローネズミ亜科に属するミナミヤブカローネズミ属の1種(Otomys sp.、英名:Vlei rat)です。ちなみにNishida(1990)のTable 1.1では、Mus tenellusPraomys jacksoniのように種が特定されていますが、上述のようにこれらは未同定と考えた方がよさそうです。



写真1 マハレに設置されたトラップカメラで夜間撮影されたネズミ(種不明)(仲澤伸子提供)



 そもそもネズミ科の仲間は、マダガスカル島を除くアフリカ大陸やユーラシア大陸、そして東南アジア島しょ部やオーストラリアに生息しています。ヒトの移動にともなって生息域を拡大していったと考えられています。アフリカ大陸には、5亜科50属264種ものネズミ科の動物がいるとされており(Mammals of Africa vol.3, 2013)、この本に掲載された分布図を見る限り、マハレには上記以外のネズミ科の仲間がいる可能性も大きいと考えられます。アフリカ大陸に生息するものは、いずれも体重が5〜210 g程度の小型の哺乳類であり、草食性、ないしは雑食性で、ほとんどの種が夜行性とされています。
 私もマハレ滞在中、何度か「ネズミ」を見たことがありますが、種を特定することはできませんでした。ここまで紹介してきたネズミ目の仲間同様、こうした小型の哺乳類については、そもそもどのような種が生息しているかも不明な点が多く、マハレの生態系の把握のためにはこうした種を対象とした研究を今後進めていく必要があると考えられます。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学)



第39号目次に戻る次の記事へ