第20回 種子から生えるキノコ―カキノミタケの仲間??

中村 美知夫


 チンパンジーが果実をたくさん食べる時期には、彼らの糞の中には大量の種子が入っています(写真1)。排出後の糞には、あっというまにハエや糞虫が集まってきます。こうした虫たちが軟らかい基質部分を食べ、後にはばらばらになった種子がたくさん残ることになります。11月頃、まとまった雨が降ると、こうした種子からもキノコが生えてきます(写真2〜6)。



写真1 果実をたくさん食べる時期のチンパンジーの糞。種子がたくさん含まれていることが見て取れる。



写真2 チンパンジーの糞から出た種子から生えたキノコ。見事に鹿の角のように枝分かれしている。



写真3 写真2を拾い上げたところ。



 日本では、カキノミタケ(Penicilliopsis clavariiformis)というキノコがよく似た特徴を持ちます。その名のとおり、カキの種子から生えるようです。Wikipedia(オンライン)の情報が正しければ、カキノミタケはアフリカにも分布するようなので、ここの写真のキノコ(のどれか?)も同じものなのかもしれません。ちなみに、千葉県ではホンドタヌキの糞場の種子からカキノミタケが生えたという報告(横山 2002)がされていますから、チンパンジーの糞から出た種子に生えても不思議ではありません。
 図鑑には、カキノミタケは「初め鹿の角状の分生子柄束があらわれ、のちその一部にできる小枝上に球形〜塊状の子のう果をつくる」と書かれています(今関ら 2011)。写真の2と3はまさしく「鹿の角状」です。写真4〜6のキノコにあるつぶつぶが「子のう果」か、とも思ったのですが、カキノミタケの子のう果(出川・中島 2006の写真2〜4)とは明らかに形状が異なります。



写真4 写真2のキノコの近傍にあった別のキノコ。これも種子から生えているが、枝分かれしておらず、表面につぶつぶが見られる。



写真5 種子から生えたキノコ。これは写真2〜4とは別の時期に見たもの。小ぶりだが、つぶつぶ部分が非常に発達している。つぶつぶの付き方は写真4のキノコともまた異なる?



写真6 写真5のものが成長するとこうなる?



 つぶつぶのあるものはいずれも枝分かれしていませんし、とくに写真5では、まだ「枝」自体が小さいうちからつぶつぶが出ているように思えます。すると、ここに示した写真には、複数種(「つぶつぶなしで枝分かれあり種」と「つぶつぶありで枝分かれなし種」?)が含まれているのかもしれません(写真4と写真6も別種かもしれない)。
 ただし、「カキノミタケ」やその学名で画像検索してみると、枝分かれしているもの、していないもの、つぶつぶがあるように見えるもの、ないもの、などいろいろと出てきます(インターネット上の同定は怪しいものも多いのですが…)。日本ではカキノミタケと類似するキノコは他にないから同定は容易だ、と書かれているだけで、今一つ同定ポイントが分かりません。アフリカにはもっと多くの種がある可能性もあるので、結局のところ断定はできません。カキノミタケの仲間なのかも怪しい。ちなみに、Aspergillus dybowskiiという種(Wikipedia online)にも似ているような…。
 相変わらずキノコの同定は難しいものです。


(なかむら みちお・京都大学)


参考文献
    出川洋介・中島稔 2006. 「横浜市より得られたカキノミタケの有性世代」『神奈川自然誌資料』 27: 13-15.

    今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(編)2011. 『日本のきのこ―増補改訂新版』山と渓谷社.

    横山元 2002. 「タヌキが生やしたカキノミタケ」『千葉菌類談話会会報』 19: 28-29.







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