第29回 デバネズミ

五百部 裕


 今回はデバネズミの仲間です。あまり聞き慣れない名前だと思いますが、デバネズミは、ネズミ目(齧歯目、Rodentia)の中のデバネズミ科(Bathyergidae)に属する動物の総称です。「A Quarter Century of Research in the Mahale Mountains: An overview」(Nishida, 1990) のTable 1.1では、科名がSpalacidae、種名がHeliophobius sp.で英名がMole ratとなっていました。また「Mahale Chimpanzees: 50 Years of Research」の「Mammalian fauna」では、科名は現在のものに修正されていますが、種名はHeliophobius sp.のままで、英名はSilky blesmolとなっていました。しかしKingdon他(2013)の「Mammals of Africa」では、この属には1種しかいないとされているので、マハレに生息するデバネズミの仲間は、シルバーデバネズミ(英名はSilvery Mole-rat、学名はHeliophobius argenteocinereus)とするのが正しいと思われます。デバネズミの仲間はサハラ以南のアフリカ大陸の比較的乾燥した地域に生息し、すべての種が地下生活を送ることが知られています。ちなみに日本にいるモグラ(英名はMole)も地下生活を送りますが、モグラは第27回で紹介したトガリネズミ目(Soricomorpha)に属するとされており、英名の「Mole」の部分が共通していますが、デバネズミとは系統的に遠い関係にあります。また、ソマリアからエチオピア東部、ケニア北東部に生息するハダカデバネズミ(Heterocephalus glaber)とボツワナを中心に生息するダマラデバネズミ(Cryptomys damarensis)は、真社会性であることが知られています。真社会性とは、ミツバチやアリに見られるように、集団生活を送りながらもその集団内で繁殖にかかわる個体が一部に限られており、不妊の「階級」が存在する社会です。哺乳類の中ではこの2種のみに見られるたいへん珍しい特徴です。



写真 シルバーデバネズミ
(By Sharry Goldman - Cropped from: Seney ML, Kelly DA, Goldman BD, Šumbera R, Forger NG (2009) Social Structure Predicts Genital Morphology in African Mole-Rats. PLoS ONE 4(10): e7477. doi:10.1371/ journal.pone.0007477.g001, CC BY 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=8103596)



 さて、マハレに生息すると考えられるシルバーデバネズミですが、ミオンボウッドランドを中心に、ケニアからタンザニア、コンゴ民主共和国南東部、ザンビア北東部、モザンビーク北部などに分布しています。名前の通り、デバネズミの中では比較的長い銀白色の毛で全身を覆われており、体長は雌雄とも15 cm程度、尾は短く足の長さも2 cm程度しかありません。移動や採食するためのトンネルは地下数cmのところに掘られ、その長さは100 mを超えることもあります。このトンネル内の深さ30〜40 cm程度のところに寝室が作られ、また排泄場所はトンネルの端の方にあるようです。植物食で、根や球根を食べて生活しています。単独生活を送り、昼夜を問わず活動するようです。繁殖には季節性があり、メスは1度に2〜5頭の子どもを産みます。他のデバネズミの仲間に比べ妊娠期間が長く、87〜101日程度とされています。IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストではLeast Concern(低懸念、または低危険種)に分類されており、絶滅する危険性は少ないと判断されています。なお、シルバーデバネズミはカソゲ地区には生息していないと考えられています。
 さすがに地中生活を送る動物ですので、私はまだ観察したことがありませんが、せめて一度くらいは観察してみたいものです。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学)



第37号目次に戻る次の記事へ