第27回 トガリネズミ

五百部 裕


 トガリネズミは、トガリネズミ目(Soricomorpha)に属する動物です。以前は、前回紹介したハネジネズミの仲間などとともに食虫目(モグラ目、Insectivora)に属すると考えられていました。「A Quarter Centuryof Research in the Mahale Mountains: Anoverview」(Nishida, 1990) のTable 1.1 でも、このような記載が見られます。しかしその後の研究の進展によって、かつて食虫目に属していた動物たちは、いくつかのグループに分けられることが明らかになりました。その一つがトガリネズミの仲間です。彼らは、霊長類や有蹄類などが含まれる北方真獣類(Boreoeutheria)に含まれ、オーストラリアと南極を除く大陸(含む近隣の島しょ部)に生息しています。日本にも10 種以上のトガリネズミの仲間が生息しています。そしてアフリカには、トガリネズミ科(Soricidae)のみがいます。



写真 ジネズミ属の一種(Crocidura russula)(Wikispecies より https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Crocidura_russula_(Huisspitsmuis).jpg)



 Kingdon 他(2013)の「Mammals of Africa」によると、アフリカに生息するトガリネズミ科の仲間は9 属150 種もいるとされていますが、小型の哺乳類で捕獲や観察が難しいことから、いまだに分類は確定していません。「Mahale Chimpanzees: 50 Years of Research」の「Mammalian fauna」では、これまでの研究を踏まえて、少なくとも3 種のトガリネズミの仲間がマハレに生息しているとしました。1 種はキノボリジャコウネズミ(Suncus megalura)で、残りの2 種は、種の同定にいたっていませんが、ジネズミの仲間(Crocidura sp.)と考えられています。そしてこの本では、キノボリジャコウネズミの学名をモリジネズミ属(Sylvisorex)に属する「S. megalura」としました。しかし、最近では遺伝学的な解析からジャコウネズミ属(Suncus)に属すると考えられるようになっています。 アフリカ大陸に生息するトガリネズミ科の仲間は、前述したように小型の哺乳類で、熱帯林から疎開林、川辺林、さらには砂漠のように乾燥した場所など、この大陸に広がるさまざまな環境下に生息しています。このうちキノボリジャコウネズミは、コンゴ盆地周辺の疎開林や湿潤サバンナを中心に、西はギニアから東はケニアやタンザニアまで広い分布域をもっています。名前の通り、地上だけでなく樹上で活動することも多いとされ、昼夜を問わず活動しているようです。体長は6 cm 程度、体重は5 g 程度で、茶灰色の体毛で全身を覆われています。そして体長よりも長い尾を持っています。この長い尾を枝に巻きつけて体を支え、木から木へ移動するようです。手足は比較的長く(体長の25%ほど)、これも樹上生活への適応と考えられています。昆虫やムカデなどの小さな動物を主食としています。ザンビアでは、樹上1 m のところに作られた巣が観察されています。IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストではLeast Concern(低危険種、または軽度懸念)に分類されており、絶滅する危険性は少ないと判断されています。 さすがにこんな小さな哺乳類になると、私もまだ観察したことがありません。チャンスがあれば、こうした小型の哺乳類も見てみたいものです。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学)



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