第26回 ハネジネズミの仲間

五百部 裕


 ハネジネズミは、ハネジネズミ目(長脚目、Macroscelidea)ハネジネズミ科(Macroscelididae)に属する動物です。現生のハネジネズミ目は、4 属15 種の動物が知られているハネジネズミ科のみによって構成されています。ハネジネズミの起源についてはよくわかっておらず、かつては食虫目に入れられたり、トガリネズミの仲間とされたりすることもありました。しかし最近の分子系統学的研究から、ハネジネズミ目は、ここまで「マハレの動物たち」で紹介してきたツチブタやハイラックス、ゾウなどと同じくアフリカ獣上目(Afrotheria)に含まれ、霊長類や有蹄類、そしてトガリネズミの仲間などが含まれる北方真獣類(Boreoeutheria)とは系統的に全く違ったグループに位置づけられています。ハネジネズミは、英語では「Elephant Shrew」と呼ばれますが、系統的に遠い関係であることが判明したトガリネズミの英名である「Shrew」と明確に区別するために、「Sengi」と呼ばれることもあります。現生の15 種はすべてアフリカ大陸に生息しており、このうちマハレには、テングハネジネズミ(Checkered Elephant Shrew :Rhynchocyon cirnei)1 種のみが生息しています。またKingdon 他(2013)の「Mammals of Africa」によると、マハレにはテングハネジネズミ以外に、コバナハネジネズミ(Short-snouted Elephant Shrew:Elephantulus brachyrhynchus)とヨツユビハネジネズミ(Four-toed Elephant Shrew:Petrodromus tetradactylus)の2 種が分布している可能性があります。


写真 マハレで撮影されたハネジネズミ(撮影 中村美知夫)



 ハネジネズミの仲間は、熱帯林から疎開林、川辺林、さらには山地林やナミブ砂漠のような乾燥した場所など、アフリカ大陸に広がるさまざまな環境下に生息しています。このうちテングハネジネズミは、熱帯林や樹冠の閉じた疎開林など比較的湿潤な環境に生息していることが多いとされています。テングハネジネズミは、ハネジネズミの仲間では最も大きく、体長は20 〜 30cm 程度、体重は300g 程度で、体長と同じくらいの長い尾を持っています。茶灰色の体毛で全身を覆われており、背中の真ん中あたりから尾のつけ根あたりにかけて、片側3 本の白いしま模様が入っていることが他のハネジネズミの仲間には見られない特徴です。前後肢とも4 本指で、発達した爪を持っています。また雌雄で大きさの違いはほとんどありません。昆虫などの小さな動物を主食としていますが、ときに木の実や木の葉を食べることもあるようです。昼行性で地上を動き回っており、林床に葉を集めて巣を作ります。そして、基本的に群れをつくらない単独生活を送っています。IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストではNear Threatened(準絶滅危惧)に分類されており、ただちに絶滅する危険性はないが、生息地の変化などがあると将来的に危急種(絶滅危惧U類)に移行する可能性があると判断されています。
 テングハネジネズミは、ハネジネズミの仲間では比較的広い分布域を持ち、かつ大型であるにも関わらず、小さな哺乳類でかつ単独生活を送っているからか、その生態や社会は不明な点が多いようです。私も、まだ観察したことがありません。マハレの動物相や生態系をより詳しく理解するためには、こうした小型の哺乳類の研究も必要かもしれません。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学)



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