第13 回 チェックイン・カウンターが閉まるとき(後編)

西江 仁徳

 

(承前)前編では、国内線のチェックイン・カウンターが閉まって私がキャンセル待ちの座席をなんとか確保できたところまで書きました。しかしまだこの先にも大きな困難が待ち受けていたのです。
 私がなんとか確保した国内線の便のダルエスサラーム到着予定は正午の予定になっていました。私の帰国便の国際線の出発予定時刻は午後1 時40 分。乗り継ぎに1 時間40 分ある計算になります。ダルエスサラームの空港は国際空港としては小さな空港なので、この便ならじゅうぶん乗り継ぎ可能だと思っていました。念のためオンライン・チェックインもすませ、時間に余裕をもたせるようにもしておきました。
 さて、国内線の便はとくに遅延もなく正午頃にダルエスサラームに到着しましたが、搭乗が最後になったせいか、預け入れの荷物がなかなか出てきません…。ようやく出てきたと思ったら、セキュリティ・チェックを受けなければならず、し かもその通路が1 つしかないところに私より先に荷物をピックアップした搭乗客が全員並んでいたので、なかなか乗り継ぎに進めません……。余裕で乗り継げるつもりだったのが、だんだんと時間が押してきて焦ってきます………。アルーシャ で国内線のカウンターが閉まるのを待っていたときはなかなか時間が進まずジリジリさせられましたが、こうなってくるといきなり時計の針が進むのが早く感じられてきます。しかもこういうときに限ってセキュリティ・チェックに引っかかる客 が何度もやり直しをさせられていたりして、列に並びながらヤキモキさせられます。
 ようやくセキュリティ・チェックを抜け出し、大急ぎで国際線のチェックイン・カウンターへ向かいます。やっとカウンターに飛び込んだのが出発予定時刻のちょうど1 時間前。やれやれ間に合った、とチケットを見せると、空港職員が一言。 「もうカウンター閉まったよ」。
 ????え????まだ1 時間あるけど???なんで????いや、ちょっと待て、乗せてくれないと困るよ、え?明日の便にしろって?明日の便は空いてないだろ!仕事でどうしても帰らないといけないから乗せてよ、まだ間に合うよね?…いや、でもおまえ遅刻したからもう無理、あきらめろ、残念だったな、んじゃ。……いやいやいやいや待て待て待てって!!そこをなんとかしてよ、ホントに明日じゃダメなんだって、頼むよ国内線が遅れたんだよ、俺のせいじゃないし、頼む よ。オンライン・チェックインもしてあるし預け入れ荷物だけだしなんとかしてよ!!
 …スワヒリ語と英語と日本語をまじえてとにかく必死のアピールを続けます。そうしてひとしきり押し問答をしていると、急に職員が小声になって、「おまえ『お茶代』は払えるのか?」と聞いてきます。ん?お茶代?? ……簡単に説明すると、これは「賄賂」の隠語です。私もかつてはタンザニアでお茶代を請求されたことは何度もありましたが、この言葉自体を聞くのがすごく久しぶりで、思わず「懐かしい…」と郷愁に浸ってしまいそうになりましたが、いやいやいやいや、それアカンやん!君たち空港職員やろ!職務上の倫理規定とかないの?搭乗客を快適な空の旅へスムーズにご案内するのが地上職員の役目じゃないのか!?
 しかし向こうもこちらの足元を見ていて、こちらが乗れないとすごく困ることはわかっていてお小遣いを稼ごうとしているわけです。なんと賢い…いや、卑劣な…しかしここで乗れなかったら10 万円以上は飛んでいく(私は飛べないのに!)ことが目に見えているわけで…。
 けっきょくこれは良くないことと思いつつも、お茶代を支払わざるをえませんでした。無念。しかしこちらも相手に花をもたせて実をとったのだと思うしかありませんでした。
 ただし、私が握らせたお茶代は、私が何度も両替を断られてタンザニアではどこでも使えなかった旧米ドル紙幣でした。今ごろ使えずに悔しがっていればいいのですが(負け惜しみ)。
 というわけでなんとか無事に予定通り帰国できたのですが、これを苦い教訓として、今後は多少のスケジュール変更には対応できるように余裕のある旅程を組んで、そして絶対にまだカウンターが閉まらないくらい(なんならカウンターが開くよりも)早い時間に空港へ到着して、悠々とお茶でも飲んで(!)待つことにしようと心に誓ったのでありました。

(にしえ ひとなる・京都大学)



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