第25回 ハイラックス

五百部 裕


 ハイラックスは、イワダヌキ目(ハイラックス目、Hyracoidea)ハイラックス科(Procaviidae)に属する動物です。イワダヌキ目は、前回紹介したツチブタと同じくアフリカ獣上目(Afrotheria)に含まれ、霊長類や有蹄類などが含まれる北方真獣類(Boreoeutheria)とは系統的に全く違ったグループに位置づけられています。そして、ゾウやジュゴン、マナティーといった動物と比較的近縁であると考えられています。現生のイワダヌキ目は、3 属5 種の動物が知られているハイラックス科のみによって構成されています。このうちマハレには、ブッシュハイラックス(Heterohyrax brucei)とミナミキノボリハイラックス(Dendrohyrax arboreus)の2 種が生息しています。なおマハレに生息するハイラックスについては、マハレ珍聞16 号(2010 年12 月発行)において、飯田恵理子さんが「岩場に棲息する変な動物 ハイラックス」と題して詳しく報告しています。ただしこの報告では、ブッシュハイラックス1 種のみがマハレに生息すると記載されていますが、国立公園全体を考えるとこの2 種が生息していると考えられています。
 いずれも全長が40 cm 程度、体重は3 〜 4 kg 程度でウサギくらいの大きさです。短足で尾は未発達です。地域による変異はありますが、おおよそ茶灰色の体毛で全身を覆われています。2 種とも、木の葉や果実、樹皮など植物性のものを食べており、昆虫などの動物性のものは食べないと考えられています。いずれもIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストではLeast concern に分類されており、絶滅の可能性は低いと考えられています。


写真1 巣穴付近のブッシュハイラックス(撮影 飯田恵理子)



 このうちブッシュハイラックスは、岩がちな地形を好んで生息しており、地上生活が基本です。マハレでも、タンガニーカ湖畔の岩場で見かけることが多いです。昼行性で、10 〜 20 頭程度の一夫多妻の集団で暮らしています。メスは1 年に1 〜 2 回発情し、妊娠期間は26 〜 30 週、1 回に1 〜 2 頭の赤ん坊を出産します。16 〜 17 か月で性成熟に達し、最長で11 年程度生きると考えられています。オスは性成熟に達するころ出自群を出ていき、メスは出自群に留まることが多いようですが、まれにメスも出自群から出ていくことがあるようです。



写真2 崖上のブッシュハイラックス(撮影 飯田恵理子)



 一方ミナミキノボリハイラックスは、ウッドランドや森林地帯に生息しており、樹上生活を基本にしています。夜行性で、単独生活をおくっています。メス同士のなわばりは重複しているのに対し、オスのなわばりはメスよりも大きく、数頭のメスのなわばりを含むのが一般的です。このなわばりを守るために、雌雄とも大きな声で鳴くことが知られています。この大きさの哺乳類としては妊娠期間がたいへん長く約8 か月です。1 回に1 〜 3 頭の赤ん坊を出産し、20 〜 30 か月で性成熟に達します。飼育下の最長寿命は14 年です。ブッシュハイラックスがカソゲ地区で観察されるのに対し、ミナミキノボリハイラックはカソゲ地区には生息していないと考えられています。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学)



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