第12 回 チェックイン・カウンターが閉まるとき(前編)

西江 仁徳

 

 飛行機に乗る前に空港に向かうとき、これから始まる旅に思いをはせ、なんとなくウキウキした気持ちになるのは、私だけではないでしょう。しかし飛行機に乗る前は「乗り遅れないように早く空港に着かなくては」と、なんとなくソワソワと緊張した気分にもなりがちなものです。今回の珍道中では、私が今年のマハレ出張時に体験した、タンザニアの空港でのドタバタについて書いてみたいと思います 。
 日本からマハレに行くにはいくつかのルートがありますが、基本的にはまずタンザニアの玄関口であるダルエスサラームまで国際線で飛び、そこから国内線を乗り継いでマハレを目指すことになります(ダルエスサラームから陸路でマハレへ向かう道中についてはマハレ珍聞第26 号と第27 号の島田さんの記事や、マハレ珍聞第28 号と第29 号の仲澤さんの記事をご参照ください)。今回私がトラブルに遭ったのはマハレからの帰路で、タンザニア第2 の都市であるアルーシャからダルエスサラームに国内線の朝の便で移動し、そのまま午後の便でダルエスサラームから国際線に乗り継ぐ旅程になっていました。
 ところが、アルーシャを出発する前夜になって、現地旅行会社から翌朝のアルーシャ→ダルエスサラームの国内線の飛行機が大幅に遅延することになり、国際線への乗り継ぎができないとの連絡が入りました。アルーシャ−ダルエスサラーム便は、日本でいえば大阪−東京便に相当する国内線の主要路線ですが、とくに天候不良なわけでもないのにいきなりこうしたスケジュール変更(実際にはのちに欠航と判明)が起こるのは、タンザニアではさほど珍しいことではありません(それでも以前に比べるとずっとマシにはなっていますが)。しかし、帰国便に乗り継げないというのは困りますし、はてどうしたものかとネットで代替便を探してみると、帰国便に乗り継げる可能性のありそうな午前中の便は1 本しかないことがわかりました。しかもその時点ですでに満席表示になっていて予約がとれません。旅行会社の担当の方もお手上げといった感じで、帰国便の変更を勧めてくれました。
 しかし、私は以前にタンザニアの国内線で一度だけ空港での当日キャンセル待ち(スタンバイ)をして座席を確保したことがあり、今回ももしかしたら当日空きが出るかもしれないと一縷の望みを託して、翌朝早起きして空港へ向かいました。その間も旅行会社の方々が頻繁に連絡してくださって、可能な代替案をいろいろとリストアップしてくれましたが、私の変更可能な帰国便は今後1 週間は空きがない(!)ことや、他社便を買い直すと10 万円以上の追加出費が必要になる(!!)ことなどがわかってきて、実はあまりよい代替案がなさそうだということも空港へ向かう道中でしだいにわかってきました。これはなんとしても座席を確保しなければ!!!とがぜん気合いがみなぎってきます。
 空港に着くと、まず鼻息荒くチェックイン・カウンター周辺をウロウロして存在感を示しておきます。こちらの存在と気合いを航空会社の地上職員に誇示するためですが、早く着きすぎてまだカウンターも開いておらず、誰も見ていないのでまるで意味はありません(警備員には目をつけられたかもしれません)。そうこうするうちにようやくカウンターが開いたので、即座にスタンバイの意志を表明して待機リストに入れてくれるよう丁重にお願いします。するとカウンターの職員はターミナルの外にあるチケットオフィスに行くよう指示してきたので、空回りした気合いをぶつけることもできないままスゴスゴと荷物を抱えてオフィスに移動したのですが、なんとオフィスもまだ開いていません。しかしここはタンザニア。時間にルーズなことにイライラしてはいけません。またしても無意味にオフィスの前を熊のようにウロウロウロウロすること数十分。ようやく航空会社のおばさんがやってきてオフィスを開けてくれました。すでに出発予定時刻まで1 時間ほどになっていましたが、キャンセル待ちで席が空いたらどうしても乗せてほしいと懇願します。懇願されても席が空かなければおばさんにもどうしようもないのですが、こちらとしても懇願するしかないのでとにかく懇願します。おばさんによると出発40 分前にカウンターを閉めるので、その時点で空きがあれば乗れるとのこと。一刻も早くカウンターを閉めてくれ!(遅れて乗れない客には申し訳ないが…)と祈るような思いでジリジリと時間がすぎるのを待ちます。おばさんに聞いたところでは、出発50 分前の時点で20 人の団体がまだ来ておらず、この団体客が来たら満席、来なければ乗せてやる、とのこと。ターミナルビル入り口にやってくる団体客がいないか気になってソワソワしてきます。あと10 分……なかなか時間がすぎません。
 そしてついに出発40 分前にカウンターから電話がかかってきて、空席が出たから乗せてやるとのこと。思わず私は日本語で「やったー!」と派手にガッツポーズをしてしまいました。そそくさとおばさんに代金を支払ってお礼を言うと、大急ぎで搭乗に向かいます。するとターミナルの入り口付近で後ろからドヤドヤと団体客が…。追い抜かれないように急いでカウンターに駆け込んで搭乗券をもらい、走って飛行機に向かいます。すると私が乗り込んだあとに、その団体客が(さして急ぐ様子もなく…)続々と乗り込んできました。彼らも全員乗れたのかどうかわかりませんでしたが、こちらはなんとか座席を確保して最初の難関をクリアできてホッと一息。しかしこのあとさらに困難な事態が私を待ち受けていたことは、このときはまだ知る由もないのでした。(つづく)

(にしえ ひとなる・京都大学)



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